「小さな異邦人」連城三紀彦著
■誘拐ミステリーを収録する最後の短編集
中学3年の一代の家に奇妙な電話がかかってきた。電話の主は子供を誘拐したから3000万を用意しろという。しかし、父亡き後、母親が昼も夜も働いて育てる8人の子供は誰一人欠けていなかった。そんなことよりも、1カ月前から調子が悪い一代の関心事は、放課後に受診した検査の結果だ。高橋センセイによると脳腫瘍の疑いがあるから精密検査が必要だという。母親がショックを受けるのを心配した一代は、病気が判明したら信頼する音楽の教師・広木先生に相談してほしいと頼む。いたずらか、人違いかと思っていた誘拐犯からの電話は、翌日もかかってきた。(表題作)
昨秋、亡くなった著者の最後の短編集。
(文藝春秋 1600円)