「失踪都市 所轄魂」笹本稜平著

公開日: 更新日:

 主人公は、警視庁捜査1課という花形部署から、城東署の刑事・組織犯罪対策課にやってきた葛木邦彦。仕事にのめり込み家庭を妻まかせにしていた3年前に、妻がくも膜下出血で倒れて帰らぬ人に。喪失感に襲われた邦彦は、所轄への異動を自ら申し出た。息子の俊史も同じ警察官の道を歩んでいるが、出世に見切りをつけた邦彦とは対照的にキャリア組として27歳にしてすでに警視となり、着々と出世街道を歩んでいる。

 そんなある日、以前老夫婦が住んでいた空き家で男女の白骨死体が発見された。当初、老夫婦が老老介護の末に衰弱死したのかと思われたが、殺人事件の疑いがあることもわかってくる。しかも、ほかに何組もの高齢者が行方不明になっていた。邦彦は息子とともに捜査に乗り出すが、なぜか上層部は捜査妨害を始める。事件の真相に迫ろうとするふたりは、失踪事件の先に何を見つけたのか……。

 官僚社会と化した警察組織のなかで、身の危険を感じながら真実を追求する親子の格闘が秀逸。出世主義を捨てた主人公の所轄刑事としてのプライドが光る。

(徳間書店 1650円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性