北上次郎氏がオススメ 正月に読みたい「面白極上本」3冊
2016年に注目すべき3人の作家を紹介したい。
「ウィメンズマラソン/坂井希久子著」は、書名から分かるようにマラソン小説だ。ただし、構成が少し異色。
物語は東京マラソン最大の難所、36キロ地点の佃大橋の上り坂をヒロイン岸峰子が走っている場面から幕が開く。この東京マラソンを2時間40分以内で走ったら復帰を認めてやる、との陸上部監督の言葉を思い出し、岸峰子は息も絶え絶えに走っている。そしてここに回想がどんどん挿入されていく。
3年前、ロンドン・オリンピックの代表に選ばれるまでの岸峰子の苦闘の日々が、手際良くディテールまで回想される。妊娠が分かって代表を辞退するのが全体の3分の1。で、出産後に復帰を目指して今、東京マラソンを走っているわけである。ここからどういうドラマが始まるかは書かない。果たしてヒロインはリオの代表になるのかどうかも紹介しないでおく。感動のラストまで一気読みの面白さであると書くにとどめておきたい。
「14歳の水平線/椰月美智子著」は、夏休み小説だ。中学生の息子、加奈太が部活もやめてつまらなそうにしているので、父親の征人は自分の生まれ育った南の島へ息子を連れていく。その加奈太の夏に、30年前の征人の夏をだぶらせるという小説だ。なかなかにうまい。
「師走の扶持/澤田瞳子」は、京都鷹ケ峰御薬園日録、との副題のついた連作小説で、女性薬師、元岡真葛がさまざまな事件を解決していくシリーズ第2弾。今回は江戸から京に戻る旅を描く3編と、京に着いた後を描く3編で、相変わらず読ませる。