著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「うそつき、うそつき」清水杜氏彦著

公開日: 更新日:

 嘘のない社会をつくるために全国民に首輪をする義務を課した国の物語だ。なぜ首輪をするのかというと、その首輪にはランプがついていて、嘘をつくとそれが赤く光り、嘘がすぐにばれるからだ。つまり首輪型の嘘発見器である。そういう超管理国家を舞台にした長編だが、主人公は首輪を外す技術を持つ少年フラノ。もちろん非合法だが、首輪を外す理由に納得がいかない場合は仕事を引き受けない。そこで依頼者はフラノに、なぜ自分は首輪を外したいと思っているのか、その理由を話さなければならない。

 本書の見返しから依頼者を拾えば、強盗犯、あざのある少女、詐欺師、不倫妻、非情な医者、優しすぎる継母など、次々にフラノを訪ねてきて、その理由を語りだす。

 この一つ一つの挿話が実に読ませて飽きさせない。人物造形と描写力にすぐれ、実に鮮やかといっていい。奇想あふれる世界を、とても自然に、そして鮮やかに描きだすのだ。その筆力にまず感服する。さらに、それだけでなく、全体の底を大きな謎が流れているから最後まで目が離せない。

 どうしてこのような超管理社会が出現したのか、それについては本書で描かれない。それは確信犯というもので、著者の興味はそういう社会が到来したら、人々の暮らしはどうなるのかという一点にある。これが実にうまい。第5回アガサ・クリスティー賞の受賞作だが、同時に別の作品で小説推理新人賞を受賞。将来性豊かな新人の登場だ。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  1. 6

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  2. 7

    豊作だった秋ドラマ!「続編」を期待したい6作 「ザ・トラベルナース」はドクターXに続く看板になる

  3. 8

    巨人・岡本和真の意中は名門ヤンキース…来オフのメジャー挑戦へ「1年残留代」込みの年俸大幅増

  4. 9

    悠仁さまは東大農学部第1次選考合格者の中にいるのか? 筑波大を受験した様子は確認されず…

  5. 10

    中山美穂さんが「愛し愛された」理由…和田アキ子、田原俊彦、芸能リポーターら数々証言