「セックスの真実」本特集

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「性なる江戸の秘め談義」氏家幹人著

 男も女も老いも若きも耳年増。つい知ったかぶりをしてしまうのが「セックスについて」である。情報過多のこの時代に、「浅く広く速く」の付け焼き刃の知識で本当にいいのだろうか。深く鋭く正しく、そして面白く(あるいは気持ちよく)、セックスの真実を追求する4冊を紹介しよう。

 ドラマ映画、小説で描かれる江戸時代は、どこか画一的である。市井の人々はもっと自由に、もっと主体的に性を謳歌していたのではないか。そんな疑問に答えるのが、氏家幹人著「性なる江戸の秘め談義」(朝日新聞出版 720円+税)だ。「武士道とエロス」「江戸の怪奇譚」などの著書がある歴史学者の著者はいう。

「ひとくちに江戸時代と言っても、260年間もあり、初期・前期と後期では、生活も習俗も大きく異なります。加えて幕府の検閲もあり、芝居でも文学でも史実そのままを表現することは憚られました。さらに、性愛の場面は娯楽作品の中で描かれたため、大衆が面白いと思わないような歴史の真実や習俗は取り上げられず、やがて忘れ去られたのです」

 明治以降、今日に至ってもその傾向は顕著で、時代劇は大河ドラマを含め、胸のすくような活劇や英雄譚、現代に通じるリーダーの教訓、小気味よい勧善懲悪、しんみり泣かせる人情話などがほとんどで、江戸時代の実態を正しく示しているとは言えないのだ。

 本書では、肉欲の源にある人間の業、生々しさの底に流れる情愛の豊かさ、男も女も己の欲望に忠実な姿が全75話につづられている。

 例えば、不倫も江戸時代では重罪の印象が強いが、過酷な刑が定められた一方、思いのほか緩やかで、金で示談に持ち込むケースが多かったという。不義密通は日常茶飯事で「おならのようなもの」という記述も。 

 また、名奉行と称えられた立派な旗本でも女中に夜這いし、同じく夜這いを試みる実の息子と出くわすこともあったという。

「江戸時代の男女の生涯は短かったうえ、感染症災害でいつ死ぬか予測がつきません。それだけに恋の楽しさ、セックスの快楽を積極的に享受しようとしました。また、男色、両刀遣い、レズビアンなどについても、それらを異常視して糾弾することはまれでした。それぞれを色事のひとつの形とみなしていたようです」

 薩摩から流行した「男色」は極めて甘美に語り継がれ、美少年を巡る流血の闘争も起きた。女たちが男装して美少年をおとす人情本も大流行。さらには女性の切腹モノ、知的熟女の男妾買いや女遊びまで、江戸のエロスは実に自由闊達。時代劇では描かれないが、男も女も老いも若きも、主体性をもって、いきいきと快楽を享受していたことがわかる。

 参考にした史料には個人の日記などもある。美化しない・規制されない生の声もすくい取り、丁寧に時間をかけて解読したという。

「江戸時代の史料の総数は想像を絶するほど膨大です。積極的で多彩な江戸の性愛は、貴重な歴史遺産として振り返られるべきだと思いますね」

「男性機能の『真実』」 永井敦著

 泌尿器科医がつづる、男のためのセックス読本。著者はED患者に寄り添い、「いい勃起をした陰茎を見ると頬ずりしたくなるくらいうれしさを感じるようになった」というのだから、男心を誰よりも熟知。下ネタと駄洒落をこよなく愛するチャーミングな人柄も垣間見える。

 勃起や射精の素朴な疑問から、EDやLOH症候群(男性更年期障害)、前立腺がんの最新治療も解説。ED治療薬は勃起改善だけでなく、血管の若返りや記憶力向上、排尿異常の改善などの効果があることもわかってきたそう。また、週2回の射精が心筋梗塞脳卒中を防ぎ、健康維持に役立つという。モットーは「接して漏らそう」だ。

 興味深いのは今や国民病とも言える「不倫」がもたらす悲劇。議員辞職や出馬断念だけにあらず、腹上死に陰茎折症と健康被害の危険性も。やはり「家庭内射精」が一番安全だと説く。

 (ブックマン社 1400円+税)

「ハタチまでに知っておきたい性のこと 第2弾」橋本紀子、田代美江子、関口久志著

 10代の性知識の低さに愕然とする。ネット上で「女性の生理=非処女」なるとんちんかんな書き込みも散見され、日本の性教育の不備を嘆かざるを得ない。本書は大学生向けに、知っておくべき性にまつわる知識と実態をまとめた良質な教科書だ。性教育、ジェンダー、セクシュアリティーの専門家が集結し、データを踏まえつつ現代日本の性について解説する。

 欧州各国の性教育と比べて日本の性教育は時間も中身も致命的に足りていないことを補うに値する内容でもある。避妊の知識や自己決定権の重要性、不妊や生殖医療の現実、性感染症の予防など、今の大学生にこそ主体性をもって考えてほしいことが網羅されている。

 また、性的マイノリティーに対する理解、デートDVや身内からの性的暴力、性の商品化や売買春についても触れ、従軍慰安婦問題にも正面から向き合っている。

 学生の子を持つ親も、これで学んでおきたい。

 (大月書店 2000円+税)

「SHIMIKEN’s BEST SEX 最高のセックス集中講義」しみけん著

 のべ19年、経験人数9000人、年間約500本に出演する現役トップAV男優の著者が書いたハウツー本。セックスに見えやプライドは邪魔と断言するが、若かりし頃はただのヤリチンで虚勢ばかり張っていたと告白。外車を並べ、黒や金のクレジットカードを見せびらかしていた時期があったという。あさはかさに気づかせてくれたのはマツコ・デラックスだったとか。

 そんな著者がAV業界に君臨し、女優たちからの支持と信頼を集めた理由がこの一冊に凝縮。キスから愛撫、クンニリングス、体位までありとあらゆる知識と経験則を披露している。乳房のGスポット「スペンスの乳腺尾部」愛撫法や、吸引しながら愛撫する「口の中でダイソン」、ベクトル計算を踏まえた腰の使い方など。

 知的なのか痴的なのかわからないが、確実に有効であろうハウツーが満載。最終奥義「しみクンニ」は実践の価値あり。

 (イースト・プレス 1300円+税)

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