国連平和維持軍の官僚主義と闘うコメディー

公開日: 更新日:

 冷戦崩壊から約30年。もうそんなに? と信じられない思いだが、その間、映画界では戦争映画と異なる「紛争映画」が着実に数を増やしてきた。その最新作が今週末封切りの「ロープ 戦場の生命線」である。

「紛争映画」の秀作は多くが欧州産。しかも戦争映画と違って「戦闘」をあまり描かない。逆に民間人や、兵隊でも腰の引けた臆病な手合いがおっかなびっくり戦闘をよけて生き延びようとする。本作も主人公は「国境なき水と衛生管理団」というNGOのメンバーだ。

 もともと欧州で水は貴重な資源。紛争地となればなおさら。そこに目をつけたのが村民に高値で水を売りつける密売団。村の井戸に死体を投げ込み、わざと使えなくした。そこで駆けつけた「国境なき――」メンバーが死体引き揚げのロープを求めて紛争地を走り回るという物語なのである。

 ハリウッドならたちまち人道モノに仕立てそうな話だが、スペインのフェルナンド・レオン・デ・アラノア監督はベニチオ・デル・トロやティム・ロビンスら男優陣の個性を生かし、はみ出し者の男たちがため息交じりに国連平和維持軍の官僚主義と闘うオフビートな喜劇に仕上げている。要は皮肉の効いた“苦笑を呼ぶコメディー”なのだ。

 写真家・安田菜津紀は「国境なき医師団」の青少年向け企画で高校生の時、カンボジアに行ったのが紛争や貧困を主題にする報道写真家を目指したきっかけという。彼女の「写真で伝える仕事」(日本写真企画 926円+税)は世界各地の子どもたちの写真とともに報道写真の志を語った画文集である。 <生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    横浜流星「べらぼう」ついに8%台に下落のナゼ…評価は高いのに視聴率が伴わないNHK大河のジレンマ

  4. 4

    ドジャース佐々木朗希「今季構想外」特別待遇剥奪でアリゾナ送還へ…かばい続けてきたロバーツ監督まで首捻る

  5. 5

    中日・中田翔がいよいよ崖っぷち…西武から“問題児”佐藤龍世を素行リスク覚悟で獲得の波紋

  1. 6

    元横綱白鵬が突然告白「皇帝の末裔」に角界一同“苦笑”のワケ…《本当だったらとっくに吹聴しています》

  2. 7

    元横綱白鵬 退職決定で気になる「3つの疑問」…不可解な時期、憎き照ノ富士、親方衆も首を捻る今後

  3. 8

    阿部巨人の貧打解消策はやっぱり助っ人補強…“ヤングジャイアンツと心中”の覚悟なし

  4. 9

    山本舞香は“ヤンキー”より“令嬢”がハマる?「波うららかに、めおと日和」《ふかふみコンビ》で人気急上昇

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも