「定年入門 イキイキしなくちゃダメですか」髙橋秀実氏

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「定年は法律で定められたものではないんです。いつ頃から始まったのか、正確な歴史もわからずじまい。定年関係の本を読んでも、定年自体に疑問を呈するものはない。定年後、充実した人生を送るにはどうするべきか、とか、いくらあれば大丈夫か、とか。要は『60歳でクビになる』ことに異議を唱える人がいなかったのだと。私なんかは疑問を抱いちゃうんですけどね……」

 確かに変だ。会社員は当然のように定年退職する。再雇用などがあるにせよ、みなあらがうことなく、すんなりと迎えている。

「きっかけは私の長年の担当編集者でした。ある日突然『定年なのでやめます』と言ったんです。やめた後どうするか聞いたら『これからは好きな本を読みたい』と。『俺の本は好きじゃなかったのか……』とショックを受けまして(笑い)。組織に勤める人は定年するのが当たり前なんですね。私のような自営業者との違いを痛感しました」

 本書は銀行、メーカー、出版社、官僚に教員、医師など、さまざまな職業の約40人に定年後の生活について聞いたインタビュー集である。釣りや陶芸など趣味に走る人、スーパーのレジ係やマンションの管理人になる人、里山保全のNPO法人を立ち上げた人、カルチャーセンターで理想の女性に出会った人など、十人十色の定年ライフだ。

「皆さん、定年後はぼんやりしていればいい、とは絶対言わない。会社や組織にいると、常にモチベーションを上げて、目的や課題をもってマネジメントしてきたわけです。定年後の人生設計でもそういうことを平然と言えなければいけない、みたいな“クセ”なんでしょうか? ビジネス書のように物事を考えるクセ。私自身は『ビジネス書なんて誰が読むのかな』と常日頃思っているのに」

 取材を通して著者がたどり着いた結論は、定年は「出世」だという。

「出世って、もともとは仏教用語で『世を出る』、つまり俗世から出て出家することなんです。逆に、肩書がなくなり、初めて裸一貫・一個人として『世に出る』のが定年。昇進したり、えらくなる出世とは違う。特に男性はにじみ出るような不安感を覚えるんでしょうね」

 取材時に悩ましかったのは、話が長くなること。履歴書持参で、入社から定年に至るまでの異動の歴史やエピソードを延々と話す人も多かったとか。

「定年後の話をうかがいたいのに、それ以前の話が長い。肝心な話に今日中にたどり着けるかな、という方もいました。また『定年しました』と言わない人。結局定年したのか、再雇用になったのか、話を聞いてもわからなかった人もいます。問い詰めるのは失礼だし……」

 話が長くなり、肝心なことをなかなか言い及ばないのはプライドなのかと思いきや、そこには別の理由があった。

「長年、企業や組織にいて、名刺から始める関係しかなかった男性は、一個人としての世間話ができないんですよ。主語が自分ではなく、会社や組織、業界のほうが話も弾む。プライドではなくコミュニケーション力だと思います。その点、女性はすごいですよね。たわいのない会話で盛り上がれる。たとえ内容がなくても楽しそうじゃないですか。結局、人生は楽しいほうが勝ちなんですよ。定年後の男性が学ぶべきは、喫茶店での女性の会話術。たわいのない日常の喜怒哀楽を話し、会話を弾ませることが大事と思い知らされました」

 (ポプラ社 1500円+税)

▽たかはし・ひでみね 1961年、神奈川県生まれ。東京外国語大学モンゴル語学科卒業。ノンフィクション作家。「ご先祖様はどちら様」で小林秀雄賞、「『弱くても勝てます』開成高校野球部のセオリー」でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。「やせれば美人」「人生はマナーでできている」「日本男子♂余れるところ」など著書多数。

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