「好きになった人」梯久美子著
人気ノンフィクション作家の初エッセー集。
雑誌のライターをしていた著者の単行本デビュー作は、太平洋戦争末期の激戦地、硫黄島の最高指揮官だった栗林忠道中将の評伝だった。「手紙の力」と題された一文では、戦争映画を見たことも、戦記物を読んだこともなかった著者が、その評伝を書くきっかけとなった一通の手紙や、大逆事件で無実の罪を着せられ処刑された管野スガが、自分の命を差し置いて恋人だった幸徳秋水を助けるために獄中から出した「針文字」で書かれた手紙について記す。
その他、かつて秘書として仕えた上場企業の社長が発した言葉の意味を今改めて考えるなど、取材を通して知り合った人との出会いや、人生の思い出の一コマを静謐な筆致でつづる。
(筑摩書房 760円+税)