「月」辺見庸著

公開日: 更新日:

 ふと目がさめる。まぶたがひらいたまま、目がさめる。みえない。とくになにも……。物語はこの独白から始まる。語り手は「きーちゃん」。園の入所者で、性別年齢不詳。目が見えず、話すこともできない。上肢、下肢ともに動かせず、ベッドの上でひとつの“かたまり”として存在しつづける。しかし、その思考は自由闊達、鋭敏な感覚で周囲を「観察」し、時には「あかぎあかえ」という人格的な分身を使って動き回ることも。

 そんなきーちゃんが注視しているのが「さとくん」だ。園の介助職員で、表面的には明朗闊達で入所者から人気があったが、途中で辞職。その後〈にんげんとはなにか〉という大問題に行き当たり、世の中をよくするべく、〈にんげん〉でない者の浄化作戦を決行する。きーちゃんはさとくんのおぞましい心の暗部へ入り込み、さとくんの計画決行に至る内面に深く迫っていく――。

 相模原市の「津久井やまゆり園」での障害者殺傷事件に想を得た小説。全編、冗舌ともいえるきーちゃんのひとり語りで、表層的な言葉でしか語られてこなかったこの事件の〈語られない真実〉をすくい取ろうと試みた衝撃作。

(KADOKAWA 1700円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    萩本欽一〈34〉私の“運”論 大谷翔平のカネを使い込んだ通訳に「小さな声で『ありがとう』」

  2. 2

    新庄監督の“再就職先”に挙がるまさかの球団 采配に賛否もチームのテコ入れ役にうってつけ

  3. 3

    欧州初の日本人指揮官誕生へ 森保一監督の“再就職先”は「ベルギー1部の日系クラブ」一択か

  4. 4

    中村倫也が「風、薫る」に大貢献…妻・水卜麻美アナとの「ずっと仲良く」「にこやかな」近況

  5. 5

    「恩人だけど、嫌いな人の代表」亡くなった板東英二さんが複雑な感情を抱いたプロデューサーの名前

  1. 6

    神戸への“聖地帰還”めぐり騒然…山口組・司組長「7年ぶりの里帰り」は実現するか

  2. 7

    松本若菜「ジュラシック・ワールド」吹き替え《棒読み》論争再燃…暗雲漂う主演ドラマに新たな逆風

  3. 8

    高市首相のあいさつはコピペ率85%…「広島への思い」石破前首相・愛子内親王とは絶望的格差

  4. 9

    高市官邸「被災地利用PV」が首相の命取りに? 安倍元首相“コロナおこもり動画”の二の舞を自民党が危惧

  5. 10

    日本ハム大ショック! “見限った”上沢直之が天敵に、呼び戻した有原航平が足枷となる皮肉