「花折」花村萬月著

公開日: 更新日:

 主人公は、画家の父と性にあけすけな母のもとで育った鮎子。父の下で幼児の頃から絵の英才教育を受け、当然のように東京芸術大学に進学した。鮎子に熱い視線を寄せる同級生には全く興味が持てず、興味をひかれたのは大学の裏山に住むホームレスの男。イボテンと名乗るその男は鮎子を小屋に誘い、体の隅々まで指先で測定した上で体の関係を結ぶ。

 それから、明けても暮れても四六時中セックスをする関係になったが、夏休みで帰省しているうちにイボテンと名乗る男は鮎子のヌード画を残して自殺していた。鮎子は死んでしまったイボテンの才能と、強烈な性体験に支配されるようになっていた……。

「ゲルマニウムの夜」で第119回芥川賞を、「日蝕えつきる」で第30回柴田錬三郎賞を受賞した著者による最新作。若き女性芸術家の主人公が、高校の担任教師、類いまれなる絵の才能を持ったホームレスの男、小説家の男など、自分を欲しがる男たちを翻弄していく。

 鮎子からインスピレーションを得て小説に没頭していく小説家など、すべてを芸術へと転化させずにはいられない芸術家の生が濃厚に描かれている。

 (集英社 1800円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性