「その診断を疑え!」池谷敏郎著

公開日: 更新日:

 つらい症状があるのに、病院を受診しても異常なしと診断され、別の病院へと渡り歩く……。近頃、こんな病院難民が増えていると、総合内科専門医の著者は言う。

 中には、ひどい足の冷えが良くならずに病院難民となっていたら、脚を切断する羽目になったというケースもある。その原因は、閉塞性動脈硬化症。下肢の動脈硬化による血行不良で冷えやだるさなどが起こり、やがて長時間の歩行が困難になり、最悪の場合は脚が壊死して切断に至るという恐ろしい疾患だ。

 冷えの訴えを聞いて血管年齢検査や頚動脈エコー検査を行い、動脈硬化が進んでいればMRIや血管造影などの精密検査を行うことで、閉塞性動脈硬化症は診断できる。医師が患者の症状を丁寧に聞き取れば、疾患を見逃すことは避けられるはずだ。

 ところが、現在の日本の医療環境がそれを妨害している。人口あたりの病院数は世界で最も多いが、臨床医の数は人口1000人あたり2.4人で、OECD加盟の34カ国中、下から6番目という低さ。一方、国民1人あたりの年間受診数は12.8回と上から2番目に多い。つまり、1人の医師でたくさんの患者を診なければならず、時間をかけて向き合うことが困難になっているのだ。

 本書では、頭痛を放置したために脳梗塞を発症したり、緑内障を見逃して長期間、見当違いのアレルギー治療を行われたなど、著者のクリニックにたどり着いた病院難民のケースを紹介しながら、難民にならないための“患者力”の上げ方を伝授。オノマトペ(擬音語)を駆使して症状を具体的に話せる「伝える力」を高めることや、疑問を箇条書きで整理し医師の意見を聞く「質問力」を磨くことなどが大切だとしている。

 医師任せはもう通用しない時代なのだ。

(集英社インターナショナル860円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    仲野太賀に注目!NHK朝ドラ「虎に翼」で寅子と結婚…そして、もうすぐ“優三ロス”が起こる

    仲野太賀に注目!NHK朝ドラ「虎に翼」で寅子と結婚…そして、もうすぐ“優三ロス”が起こる

  2. 2
    悠仁さまは推薦入学で東大を目指すも…名門・筑波大付属高校が持つ「4人」の枠に入れるのか?

    悠仁さまは推薦入学で東大を目指すも…名門・筑波大付属高校が持つ「4人」の枠に入れるのか?

  3. 3
    エジプト考古学者・吉村作治さんは5年間の車椅子生活を経て…80歳の現在も情熱を失わず

    エジプト考古学者・吉村作治さんは5年間の車椅子生活を経て…80歳の現在も情熱を失わず

  4. 4
    ドジャース大谷のタイトル獲得に「待った!」をかけるナ・リーグ屈指の怪物打者3人

    ドジャース大谷のタイトル獲得に「待った!」をかけるナ・リーグ屈指の怪物打者3人

  5. 5
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  1. 6
    木村拓哉「Believe」初回好発進は“ご祝儀”?堺雅人や長谷川博己はやっぱり役者として格が違う

    木村拓哉「Believe」初回好発進は“ご祝儀”?堺雅人や長谷川博己はやっぱり役者として格が違う

  2. 7
    新NHK朝ドラ「虎に翼」気になる3つのジンクス…「らんまん」「ブギウギ」の好調を引き継げるか

    新NHK朝ドラ「虎に翼」気になる3つのジンクス…「らんまん」「ブギウギ」の好調を引き継げるか

  3. 8
    伊藤沙莉「虎に翼」《これぞ理想の男》と人気キャラ爆誕!戸塚純貴演じる「俺たちの轟」の気になる先行き

    伊藤沙莉「虎に翼」《これぞ理想の男》と人気キャラ爆誕!戸塚純貴演じる「俺たちの轟」の気になる先行き

  4. 9
    スタバより仕事がはかどるチェーンは?コーヒー1杯じゃもったいない!メニューと居心地を徹底比較

    スタバより仕事がはかどるチェーンは?コーヒー1杯じゃもったいない!メニューと居心地を徹底比較

  5. 10
    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較