著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「高校サッカーボーイズU―18」はらだみずき著

公開日: 更新日:

 サッカーボーイズ・シリーズ高校生編がついに完結である。これで中学生編5巻、高校生編3巻の合計8巻が出たことになるが、その8巻目を突然いまさら紹介されたって、これから全部読むのは大変だと思われるかもしれない。しかし、この希有なシリーズがついに8巻まで出たことを記録として残しておきたいと思う。それに、この8巻目を読んで、ここからさかのぼってもいいのだ。

 それでは、このシリーズが希有であるとはどういうことか。まずそこから始めたい。これは突出した才能を持つプレーヤーの誕生物語ではない。1人の天才が幾多の困難を乗り越えて、世界に羽ばたいていく物語ではない。そういう話も面白いとは思うものの、これはそうではない。どこにでもいるようなサッカー好きの少年たちの物語なのである。つまり、私たちの物語なのだ。

 中学生のときはボールを追いかけるだけで面白かったが(いや、それでも実にさまざまなことが起きて、それを活写してきたから、このシリーズが素晴らしかったのだが)、高校生になるとそういうわけにはいかなくなる。

 少年たちは現実に直面するのだ。ひらたく言えば、自分よりもサッカーのうまい子はたくさんいる。だから試合に出ることも出来ない。高校生編を貫くのはその苦さである。私たちの物語である、というのはそういうことだ。この次に始まるのは大学生編なのか、社会人編なのか。それを楽しみに待ちたい。

(KADOKAWA 1500円+税)

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