「今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由」ジャロン・ラニアー著、大沢章子訳 亜紀書房/1800円+税

公開日: 更新日:

 バーチャルリアリティー研究の大家が書いた本だ。私はネットニュースの編集者という仕事をしているため、ネット上で発生したトラブルに関し、取材を受けることは多い。よく聞かれるのが「日本のウェブ空間は特殊か?」という質問だ。炎上が特に多いのか? より陰湿か? というのが質問の意図だろう。

 大抵の場合「人間がやっている以上同じでは」と答えるのだが、本書を読むと、この答えで合っていることが分かる。世界最強国家であるアメリカの人ならば、ネットを正しく使い、生産性を上げ、人々を幸せにしているのでは、と考える向きもあるかもしれないが、そんなことはない。

 日本と同様にスマホ中毒になった人々がフェイスブックやグーグルといったプラットフォーマーに情報や行動属性を握られ、彼らに莫大な広告費をもたらす、という点ではまったく同じである。

 本書は私自身がこの18年ほど関わっているネットビジネスで感じたことを実感とともに再確認できるが、新たなる知見を得られるわけではない。だが、あまり詳しくない人にとっては内情を知れる本である。さらにアメリカに対する幻想と日本に対する過度な悲観論を持つ人にとっては一度頭を冷やすことができる。

 常に手元のスマホでネットにつながれる今やるべき行動様式も描かれている。現在、個々のユーザーに最適化された情報がレコメンドされるものだから、結局自分にとって心地よいニュースばかり見る時代となっている。

 著者は保守派であるトランプ大統領及びその支持者に対してネガティブな感情を持っているが、それらの情報を排除すべきではないと述べる。だからこそリベラルな彼は、あえて保守系な内容のニュースサイトを見るようにしているそうだ。皆が常にスマホをのぞき込む状況は、個々がそれぞれの世界に没頭していることを意味するが、著者はこの状況をこう述べる。

〈現代は予想以上に不透明な時代となった。私はインターネットが透明な社会をもたらすと期待された時代を知っている。ところが現実はその逆だった〉

 第7章のタイトルは「ソーシャルメディアはあなたを不幸にするから」だが、こんな記述がある。

〈ソーシャルメディアに家族との素敵な暮らしぶりを投稿しているのに、じつは家族と過ごす時間はそれほど多くないかもしれない。(中略)自己表現しているのに、自尊心は低下する一方かもしれない〉

 日本と同じだろう。 ★★(選者・中川淳一郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?