「日本ジャズ地図」常田カオル取材・文 谷川真紀子撮影

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 店内は私語厳禁、客はスピーカーに向かって一方向に並んだ椅子に座り、一心に音楽に耳を傾ける――そんな音楽を聴くことだけを目的にしたジャズ喫茶は日本独自の喫茶空間だという。

 本書は、ライブハウスやジャズバーを加え、全国に約300点ほどあるジャズスポットから厳選した店を紹介する全国ジャズ名店ガイド。

 北海道夕張市の「FIVE PENNIES」は、緑に囲まれたログハウスで、ジャズ喫茶に誰もが抱くイメージから大きくかけ離れた店構え。仙台で過ごした大学時代にカウント・ベイシー・オーケストラを聴いてジャズに開眼したという元夕張市役所職員の大崎さんが、市の財政破綻で退職後に、国有地の未利用地を取得して開店した。

 そのカウント・ベイシー・オーケストラを当時、東北に何度も招聘していたのが、ジャズ愛好家なら誰もが知る岩手県一関市の名店「BASIE」のマスター・菅原正二さんだ。50年間、片面20分ほどのレコードを途切れることなくつなぎ続けてきた菅原さんが、針を落とした瞬間、「本来物質であるはずのレコードに生気が宿る」という。

 他にも、御年98歳という現役最長老の女性店主・土屋行子さんが営む静岡県熱海市の老舗「yushima」や、所蔵レコード4万枚という愛知県知立市の「GOOD BAIT」、「決まった客が同じ時間に来るようになると、つい引っ越したくなっちゃう」とこれまで市内で3度も店名を替えながら移転を繰り返してきた京都の老舗「LUSH LIFE」など、全国の69店を網羅。

 ジャズ喫茶には個性的なマスターがつきもの。彼らのこだわりと、壁から音楽がにじみだすような年季の入った店内の写真を見ていると、一度は訪ねてみたくなる。

(交通新聞社 1600円+税)

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