「新型コロナウイルスを制圧する ウイルス学教授が説く、その『正体』」河岡義裕/聞き手・河合香織 文藝春秋/2020年

公開日: 更新日:

 ウイルス研究第一人者である河岡義裕氏(東京大学医科学研究所感染症国際研究センター長/米国ウィスコンシン大学獣医学部教授)から新型コロナウイルス感染症に関する基本知識を大宅賞作家の河合香織氏が聴き取って、わかりやすくまとめた作品だ。

 本書を読むと新型コロナウイルスを過剰に恐れる必要がないことがわかる。

 河岡氏は、特定の遺伝子を選択的に欠失・破壊することによって、その遺伝子の機能を解析するリバース・ジェネティクス(逆遺伝学)の専門家でもある。ここにCIA(米中央情報局)が目を付けた。

<私がCIAと初めて接触したのは、ウイスコンシン大学でインフルエンザウイルスのリバース・ジェネティクスに関する論文を書いたときです。/「政府機関の者ですが、話を聞かせてほしい」と女性の声で電話があり、どの政府機関なのかも名乗りませんでした。そして、研究室にやってきた時に差し出された名刺にも、女性の名前と電話番号のみが印刷されていて、組織も肩書もありませんでした。/「ラングレーの者ですが」と女性は言いました。ラングレーとはCIA本部があるアメリカ・ヴァージニア州の町の名前で、それがCIAの代名詞になっています。/女性は私に、学会などで特定の国家や組織の人物が接触してこなかったか、と質問しました。彼女は幾度も私の研究室にやってきました。/アメリカは同時多発テロや炭疽菌テロ以来、細菌やウイルスを利用した生物兵器対策を強化していました。この時も、私が開発した技術が生物兵器に使われないかどうかを調べるために、連絡してきたのでした>

 インテリジェンスの世界の常識に照らして、河岡氏は、CIAの情報提供者ということになる。

 中国、ロシア、韓国、北朝鮮、イランなどのインテリジェンス機関は、本書の内容に注目するであろう。そして、国際学会などの機会を利用して河岡氏と自然に接触を試みると思う。

 評者は、このままだと河岡氏が面倒な世界の人々と関わり、トラブルに巻き込まれるのではないかと恐れる。早めに警察の公安関係者と相談し、防御策について考えた方がいいと思う。★★★(選者・佐藤優)

(2020年8月18日脱稿)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?