「伝説の経営者100人の世界一短い成功哲学」田原総一朗著/白秋社

公開日: 更新日:

 政治家に舌鋒鋭く斬り込んでいく。田原総一朗氏は、そうしたイメージが強いが、実は、多くの経営者にも直接取材を重ねてきている。その取材を100人分まとめたのが、本書だ。

 本書で驚くのは、登場する経営者の幅がとにかく広いことだ。松下幸之助や本田宗一郎といったもはや歴史上の人物から始まって、何かとお騒がせのZOZOの創業者前沢友作氏やメルカリ創業者の山田進太郎氏といった新進の経営者まで、実に多様な人たちから話を聞いている。田原氏が、50年間、ジャーナリズムの第一線で活躍し続けてきたことの成果だろう。

 ただ、100人分の取材を一冊にまとめたために、1人当たりの文章は、とにかく短い。通勤列車のなかで読んでいると、1駅で2人分くらい読めてしまうくらいだ。しかも、その内容は、ビジネスモデルや経営理念を聞き出すというよりも、田原氏が興味をもったことを深掘りするピンポイントだ。だから、経営者の肖像画を描くというより、デフォルメして似顔絵を描いているのに近い。ただ、本音の引き出し方が、いかにも田原氏らしくて見事なのだ。

 例えば、最近、持続化給付金の委託事業などで、マスメディアでしばしば「政商」の扱いをされているパソナの創業者、南部靖之氏からは「志は野心に変わるのです」という言葉を引き出している。いまになってみると、何と含蓄のある言葉だろう。

 そして、もうひとり、私が「なるほど」と思ったのが、元ライブドア社長の堀江貴文氏だ。私は田原氏の「朝まで生テレビ!」に出演させてもらったとき、田原氏の口から「堀江は無罪だ」という言葉を何度も聞いた。私は、なぜ田原氏がそんなことを言うのか理解できないでいた。違法な粉飾決算を主導したことは、明らかだったからだ。

 ただ、本書を読んで納得した。インタビューの際に、堀江氏は必ず常識を覆すような斬新なレスポンスをしてくる。そんな堀江氏のことを田原氏は、大好きなのだ。大好きだから、堀江氏の言うことを信じてしまうのだ。

 そうした点を含めて、本書は経営者の紹介というより、田原氏の人物評としてみるほうが、楽しめるのかもしれない。 ★★半(選者・森永卓郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  2. 2

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  3. 3

    高市内閣の閣僚にスキャンダル連鎖の予兆…支持率絶好調ロケットスタートも不穏な空気

  4. 4

    葵わかなが卒業した日本女子体育大付属二階堂高校の凄さ 3人も“朝ドラヒロイン”を輩出

  5. 5

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    隠し子の養育費をケチって訴えられたドミニカ産の大物種馬

  3. 8

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 9

    高市早苗「飲みィのやりィのやりまくり…」 自伝でブチまけていた“肉食”の衝撃!

  5. 10

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑