中山七里 ドクター・デスの再臨

1961年、岐阜県生まれ。2009年「さよならドビュッシー」で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。本作は「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「ハーメルンの誘拐魔」「ドクター・デスの遺産」「カインの傲慢 」に続く、シリーズ第6弾。

<14>安楽死の事情に詳しいようですね

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 富秋は険しい顔をする。妻が自分の安楽死を独断で決めたのが、未だに納得できない様子だった。

「仮に安楽死について相談されていたら、すぐには賛成できなかったと思います。妻の意思を尊重したいと思いますが、日本では消極的な安楽死しか認められていないですし」

「本人と話し合われていないのに、安楽死の事情には詳しいみたいですね」

「賛成などしたくありません。しかし不治の病となれば当然、調べもします」

 安楽死は積極的安楽死と消極的安楽死の二つに大別される。

 積極的安楽死

①自発的安楽死(Voluntary Euthanasia)意思能力を備えた成人が自らの意思で死を望んでいる場合。

②非自発的安楽死(Non―voluntary Euthanasia)重度障害新生児など、本人に判断能力がなく意向を表明できない場合。

③反自発的安楽死(Involuntary Euthanasia)意思能力を備えた本人の意向に反する場合。

 積極的安楽死については、一九九五年三月二十八日横浜地方裁判所松浦繁裁判長によって医師による安楽死に当たるかどうかの判断基準として次の四条件が違法性阻却要件と提示されている。
1 耐えがたい肉体的苦痛があること。
2 死が避けられずその死期が迫っていること。
3 肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段がないこと。
4 生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること。

 消極的安楽死(Passive Euthanasia)は患者を死なせる目的で延命治療を停止させることだ。積極的安楽死と同様①自発的安楽死 ②非自発的安楽死 ③反自発的安楽死に区別される。 

 なお、判例では積極的安楽死の四要件が提示されているものの、実際の運用上はほとんど許容されていない。現時点において医師による積極的安楽死事件は、「法律上許される治療中止には当たらない」としてことごとく有罪判決が下されているのが現状だ。

「この国においては犯罪でしかない積極的安楽死です。賛成なんてできる訳がないじゃないですか」

「では何者かが、犯罪になることを承知の上で安楽死を請け負ってくれるとしたら賛成しましたか」

「犬養さん」

 慌てた様子で明日香が止めに入る。富秋に自殺幇助の意思があったかどうかを確認するための質問だったが、露骨に過ぎたかもしれない。ところが富秋の隣に座っていた亜以子が意外な反応をした。

「わたしなら賛成したと思います」

 (つづく)

【連載】ドクター・デスの再臨

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