喧嘩の流儀 菅義偉、知られざる履歴書読売新聞政治部著/新潮社/1650円

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 表紙にドカーンと菅氏が出ており、このタイトルと合わせると菅氏がこれまでにいかにして喧嘩をしまくって相手を屈服させ続けて総理にまで上り詰めたのか、といったことが書かれていると思うかもしれない。

 だが、すべて読んでみるとそうではないことが分かる。いや、私は菅氏という人物にさほど興味がないためむしろその方がよかった。一体この本が何かといえば、こうである。

「安倍から菅へ……コロナに振り回された日本の2020年ドタバタ政治の裏側」である。もちろん、菅氏の生い立ちや、総理就任に至るまでの流れも書かれているのだが、2月の「ダイヤモンド・プリンセス」の対応や酷評された「アベノマスク」誕生の裏側などが次々と紹介される。他にも「桜を見る会」や「河井夫妻の疑惑」「秋元IR担当副大臣逮捕」などの際、政権および菅氏は何を思っていたのか、どう影響したか、などについても触れられているが、菅首相誕生にはコロナが大いに影響していることが分かる。

 何しろ空前絶後のワケの分からない騒動により、もはや安倍晋三前首相が持ちこたえられなくなってしまったさまが描かれるのだ。もしもコロナ騒動がなかったら、2020年に東京五輪が開催され、日本は金メダルラッシュで高揚し、恐らく現在でも安倍首相のままだったことだろう。

 その算段が完全にぶっ壊れていくさまを、読売新聞政治部の記者が描くのが本書である。国民とメディアはコロナ対策で散々政府を批判してきたが、政治家の身近にいた記者からすれば「おまえら簡単に批判するけどさ……。政治家って大変なんだよな」といった若干の「手心」を感じてしまう。

 小ぶりで若干間抜けに見える布マスクであるアベノマスクを安倍氏はかたくなに着け続けたが、8月に外した。この件についてはこうある。

〈一口に全戸配布といっても、マスクの発注から製造、輸入まで詰めなければいけないことは山ほどあり、一筋縄でいく話ではない。安倍が側近の思い付きをそのまま実行に移したことに、菅は冷ややかだった。菅がその後、安倍にやんわりと苦言を呈すると、安倍は「いいと思っちゃったんだよね」と言い訳した〉

 2020年ほど政治に関心が持たれた年は珍しいのではないだろうか。「桜を見る会」や「モリカケ問題」は他人事だった人もコロナはそうではない。コロナがきっかけで政治に興味を持った人は本書を読むと楽しめるだろう。 ★★半(選者・中川淳一郎)

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