「廃墟マニアックス!廃愛本」中田薫編
「廃墟マニアックス!廃愛本」中田薫編
世界は絶え間なく更新され続けている。その陰で、誰にも知られずひっそりと役目を終えていく存在もある。静かに朽ち果てていく住宅、使われなくなった道や駅、そしていつのまにか営業を終えていた店舗や宿泊施設、映画館など。
世の中には、「廃的な世界観」を醸すこうしたスポットに「詫び、寂び、鄙び、枯れ、廃れ、幽玄、無常、もののあわれ」を感じ、偏愛する人々がいる。
本書は廃墟に魅せられた人々によるルポルタージュ集。
ひと口に廃墟を偏愛するといっても、人それぞれ夢中になっているジャンルがある。
巻頭を飾る星野藍氏の推しは「スポメニック」だ。スポメニックとは、クロアチア・セルビア語で「モニュメント」を意味する戦争記念碑のこと。
表紙の写真も星野氏のもので、かつてクロアチアのファシスト政権によって殺害された多くの犠牲者を追悼するため、強制労働・絶滅収容所の廃墟の上に1960年代に建てられたものだという。
星野氏は、ほかにもクロアチア各所を巡り、旧ユーゴスラビア時代に建てられ、今は放置されて「風葬」状態にあるさまざまなスポメニックを多数紹介する。
吉田栄華氏が偏愛するのは「廃パチンコホール」。華美な装飾の痕跡や往年の遊技機や玉の補給装置など、全国各地の貴重な廃ホールを巡り、記録に残している。
ほかにも、巨大な観音像がそびえ、世界一の梵鐘が放置された石川県の「観音院加賀寺」などの宗教施設を巡るクロスケ氏や、これまでに1000カ所近い「廃校廃村」(学校跡が残る廃村)を巡ってきた浅原昭生氏、廃旅館の魅力を語る「道民の人」氏など。13人がそれぞれの廃界の巡り方を紹介。
読者を廃界の魅力へと誘う「危険」な一冊だ。 (大洋図書 2200円)