「アウシュヴィッツのお針子」ルーシー・アドリントン著 宇丹貴代実訳

公開日: 更新日:

 1942年、スロバキアやハンガリーなどから集められた多くのユダヤ人女性の第1陣がアウシュヴィッツに移送された。入所に当たって服が次々に剥ぎ取られ、暴力や屈辱を受けたあと、運良く生きて働くよう選別された一部の女性たち──スロバキアで人気のファッションサロンを経営していたマルタはその技能のおかげで、ヘス所長の妻専用お針子として働くことに。やがてマルタの腕は他の親衛隊員の妻たちの知るところとなり、ヘス夫人は収容所内にナチスエリート階級のためにファッションサロンを立ち上げる。

 マルタはこれを機に囚人の中から助手を採用するよう要請。イレーネ、ブラーハ、カトカら多くの女性を救出する。彼女たちは型紙を起こし、裁断し、装飾し、次々に美しい衣服を作っていく。一方でマルタは、レジスタンス活動をして逃亡計画を立てていく。

 アウシュビッツでお針子だったユダヤ人女性たちへの取材をもとに、収容所の秘密のサロンを描き出した衝撃の実話。過酷で死と隣り合わせの日々の中でも友情を育み、収容所の仕組みに通じ生き延びる知恵を得ていく数々のエピソードが胸に迫ってくる。

(河出書房新社 2475円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  2. 2

    巨人・桑田二軍監督の電撃退団は“事実上のクビ”…真相は「優勝したのに国際部への異動を打診されていた」

  3. 3

    クマ駆除を1カ月以上拒否…地元猟友会を激怒させた北海道積丹町議会副議長の「トンデモ発言」

  4. 4

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  5. 5

    クマ駆除の過酷な実態…運搬や解体もハンター任せ、重すぎる負担で現場疲弊、秋田県は自衛隊に支援要請

  1. 6

    露天風呂清掃中の男性を襲ったのは人間の味を覚えた“人食いクマ”…10月だけで6人犠牲、災害級の緊急事態

  2. 7

    高市自民が維新の“連立離脱”封じ…政策進捗管理「与党実務者協議体」設置のウラと本音

  3. 8

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 9

    恥辱まみれの高市外交… 「ノーベル平和賞推薦」でのトランプ媚びはアベ手法そのもの

  5. 10

    引退の巨人・長野久義 悪評ゼロの「気配り伝説」…驚きの証言が球界関係者から続々