「知らないと恥をかくアメリカの大問題」池上彰著/KADOKAWA

公開日: 更新日:

 本書を読むとアメリカの国力が衰え始めていることがよくわかる。バイデン大統領は、民主主義VS独裁という二項対立で世界を理解しようとしている。そしてアメリカが独裁と見なす中国、イラン、ロシアなどを力で封じ込めようとしている。

 ウクライナ戦争においても、アメリカと価値観を共有し、共同行動をとるのは、ヨーロッパ諸国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国、シンガポールと台湾からなる西側連合だけだ。それ以外の国は、この戦争にできるだけ巻き込まれないように距離を取っている。日本は西側連合の一員なので、情報空間に歪みが生じていて、状況を客観的に把握することができなくなっている。

 バイデン政権の価値観外交が東アジアでも戦争を引き起こす可能性がある。この点で台湾情勢に関する池上氏の認識に耳を傾ける必要がある。
<これまで歴代のアメリカ政府は、中国と台湾の関係について「曖昧戦略」をとってきました。つまり、もし中国が台湾を軍事侵攻した場合、アメリカがどのような行動を取るかは明言しないで中国を刺激しないようにしてきたのです。/ところがバイデン大統領は、「台湾を守る」と明言しています。台湾を守るとは、中国の軍事侵攻と戦うことを意味します。つまり「米中戦争」です。バイデン大統領は、あえて台湾支援を明言することで、「米中戦争」になりかねないことを中国に警告し、戦争を抑止する戦略なのです。>

 バイデン大統領にしてもトランプ前大統領にしても、他国や他民族の心情や論理を理解することが苦手だ。池上氏はアメリカの理屈が中国に通用しない可能性を危惧する。
<しかし、中国は面子を大事にする国。中国への警告を中国が「侮辱」だと受け止めた場合、何が起きるかわからない怖さがあるのです。果たしてアメリカに、それだけの洞察力や抑制力があるのか、どうか。こうして見ると、米中の狭間に位置する日本は、非常に危うい立場になりかねません。>

 アジア人同士の殺し合いが起きないように、日本は自分の頭でよく考える外交を展開しなくてはならない。

 ★★★(選者・佐藤優)

 (2022年11月3日脱稿)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    今オフ勃発「FA捕手大シャッフル」…侍Jの巨人・大城、SB甲斐を筆頭に中日、阪神も参戦か

    今オフ勃発「FA捕手大シャッフル」…侍Jの巨人・大城、SB甲斐を筆頭に中日、阪神も参戦か

  2. 2
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 3
    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  4. 4
    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

  5. 5
    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

  1. 6
    “辞めジャニ”野村義男は59歳で現役バリバリ!引く手あまたの秘訣は「第三の道」を歩んだこと

    “辞めジャニ”野村義男は59歳で現役バリバリ!引く手あまたの秘訣は「第三の道」を歩んだこと

  2. 7
    巨人・秋広が今季初昇格も阿部監督「全く期待していない」…のんきな性格がアダで早くも背水の陣

    巨人・秋広が今季初昇格も阿部監督「全く期待していない」…のんきな性格がアダで早くも背水の陣

  3. 8
    阪神・岡田監督が密かに温めていた「藤浪獲得プラン」が消滅していた…

    阪神・岡田監督が密かに温めていた「藤浪獲得プラン」が消滅していた…

  4. 9
    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

  5. 10
    人間性やスタンスが如実に表れたMLB挑戦時の「西海岸かつ小規模都市」へのこだわり

    人間性やスタンスが如実に表れたMLB挑戦時の「西海岸かつ小規模都市」へのこだわり