「歳時記 夢幻舞台24の旅(トリップ)」髙樹のぶ子著

公開日: 更新日:

 接ぎ木について歌った正岡子規の句を起点に、強く根を張ったシークワーサーの台木に、甘いミカンの穂木を接ぐ植生技術の映像に興味をひかれた著者がふと思い出したのは、小学校の頃のやけに生々しい思い出だった。それは、戦争で父親を亡くした子の家に田畑を耕すためにやって来た亡父の弟の姿。田畑を耕す男のたくましい姿が目につき、やがてその弟がその子の父親になることを知らされるのだが……。(「接ぎ木」)

 現実のようでいて、どこか幻想的で不思議な人間模様を、四季折々の情景と共に紡いだ短編集。

 病気のために中学校に行くこともなく14歳で亡くなった美枝ちゃんを思い出させた教室に迷い込んできた鳥の話「迷鳥」、昔付き合っていた妻子のある男の訃報を聞いた後にその男を騙(かた)る人物から不思議なメールが届き始めた「枯れ葉」など、24編が収録されている。

 物語の舞台は沖縄、ギリシャ、北海道、東京、出雲など場所を限定されているものから、どこともいつとも限定できないような幻想的な設定までさまざま。

 どこか懐かしさと切なさを含んだ風情あふれる物語が味わえる。

(潮出版社 2090円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 4

    大山悠輔に続き石川柊太にも逃げられ…巨人がFA市場で嫌われる「まさかの理由」をFA当事者が明かす

  5. 5

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  3. 8

    どうなる?「トリガー条項」…ガソリン補助金で6兆円も投じながら5000億円の税収減に難色の意味不明

  4. 9

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  5. 10

    タイでマッサージ施術後の死亡者が相次ぐ…日本の整体やカイロプラクティック、リラクゼーションは大丈夫か?