20年前の冤罪事件を基にした権力と戦った男たちの物語

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 映画やドラマで見る弁護士ほど国情の違いを感じさせる存在も少ないだろう。先月封切られたアメリカ映画「ワース 命の値段」は9.11同時多発テロの犠牲者の遺族への補償を、政府側の特別管理人として担当した弁護士の実話だが、マイケル・キートン演じる主人公は有能だが野心満々の人物。

 アスベスト被害や枯れ葉剤後遺症訴訟などを手がけた人権派で、他人が尻込みする難しい案件に好んで挑む。金銭補償という形で命に値段をつける、その落としどころを探る仕事にアドレナリンが湧き出る男として描かれるのだ。

 日本ではどうだろう。その一例が今週末封切りの「Winny」。芸能ニュースでは東出昌大の主演作というので話題だが、中身は約20年前の冤罪事件の実話。“違法”なファイル交換ソフトを東大の助手が開発してネットにばらまいた容疑で逮捕され、オタク文化の拡大と相まって社会問題化された。

 監督の松本優作は、同時期に起こった愛媛県警の裏金工作の告発問題を副筋にからめ、日本の警察司法への異議をしのばせる。表面的に見ると浮世離れしたサイエンティスト役の東出の芝居に目を奪われそうだが、主題はこっちだ。

 俳優陣で目を引くのが弁護士役の三浦貴大。警察、検察を相手の心理戦に加え、被疑者=依頼人の人柄を見抜き、信頼を得る過程で見せる多彩な顔がいい。脇役に吹越満ら達者な面々を起用した分だけ、かえってどこかで見たような話になりそうなところを三浦の存在がきっちりまとめる。真の主役は彼だろう。

 主人公になった弁護士が事件を振り返った手記が壇俊光著「Winny 天才プログラマー金子勇との7年半」(インプレスR&D 1980円)。なぜか控えめに「小説」とうたっているが、関西人らしい気配りと職業意識が面白いニッポンの弁護士さんである。 <生井英考>

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