国際列車に乗り合わせた最悪な男との旅

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「コンパートメント№6」

 欧州大陸で国際列車に乗るのは楽しいが、緊張もする。個室車両で知らない人と同室になると相手次第で旅の様相が一変するからだ。そんな体験を思い出させるのが来月10日に封切り予定の「コンパートメント№6」。カンヌ映画祭でグランプリを得たフィンランド発の映画だ。

 同国の映画監督といえばカウリスマキが有名だが、本作のユホ・クオスマネンも人の縁のあやを巧みに描く。

 モスクワに留学中の考古学生ラウラ。恋人と行くはずのムルマンスク遺跡の旅が1人旅になってしまう。おまけに同室の男は酔った声で何かとからんでくる丸刈り頭。欧州で丸刈りはフーリガンが相場だから、これはたまらない。旅先の風景は灰色の暗い空と雪嵐。およそ地味で無愛想なヒロインと同室の男が思わぬかたちで人生を交差させる道行きをたどり、映画は違った国の人間同士が孤独や失意を分かち合い、偶然の運命をともにする姿を描くのである。

 米原万里著「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」(KADOKAWA 616円)は冷戦下の60年代、チェコのソ連大使館付属学校に学んだ著者が、同級生たちとの交友を振り返った大宅賞受賞の回想記。ゴルバチョフの有名なペレストロイカ演説を日露同時通訳したことで知られた著者だが、本書では欧州各地から来た国際色豊かな旧友たちの往時とその後を通して、悲喜哀歓の人生が語られる。

 ギリシャ人の反抗児リッツァ、ルーマニアの愛国少女アーニャ。最終章では旧友ヤスミンカの消息を訪ねて旧ユーゴ紛争の中にまで飛びこんでゆく。

「愛国心、あるいは愛郷心という不思議な感情は、等しく誰もが心の中に抱いているはずだ、という共通認識のようなもの」がどの子も教師にもあったと著者はいう。

 グローバル化への反発いちじるしい今日、考えさせられる一言だろう。 <生井英考>

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