半世紀を経て現代に蘇ったドキュメンタリー

公開日: 更新日:

 昔、W・サスマンというアメリカの歴史学者の本で、映画「イージー・ライダー」に出てくるヘルメットに星条旗が描いてあるのはなぜか、という学術論文らしからぬ一節に驚いたことがある。あの映画は「反体制文化」の代表作が定評。その主人公と愛国心を誇示する国旗が結びつく疑問から論文が始まるのだ。

 今週末封切りのドキュメンタリー「日の丸 寺山修司40年目の挑発」を見ながら、ふとそんなことを思い出した。

 劇団「天井桟敷」を旗揚げする前、寺山修司はテレビで脚本を書いていた。そのひとつが1967年のTBSドキュメンタリー「日の丸」。通行人にマイクを向け、無機質な口調で「あなたは日の丸の旗を持ってますか」「日の丸の赤は何を意味してると思いますか」とたたみかける。これが国旗への冒涜と批判され、寺山はテレビを去ったのだ。

 今回の映画は94年生まれの若手ディレクター、佐井大紀が同じ趣向を「忖度」の現代に蘇らせた実験作。自分もマイクを持って街頭に臨み、60年代とは一変したあやふやな世相に挑む。

 完成度は実は高くない。途中から、国旗の話なのか、ドキュメンタリーの方法論なのか、主題も混乱する。それでも、この種の表現は現場で試行錯誤を重ねるのが何よりだろう。

 ちなみに現行の日の丸の意匠が、かつて変更されたことは意外に知られていない。64年東京五輪の2年前、日の丸に厳密な規定はなく、「旗の縦横比7:10、赤丸の直径は旗の縦幅の5分の3」が慣習化されていた。それを若手広告デザイナーの永井一正らが赤丸を大きくする「旗は2:3、赤丸は縦幅の3分の2」を提案したのだという。当時の試作図案は瀬木慎一ほか監修「日宣美の時代」(トランスアート 7150円)で見ることができる。筆者は昔の小さい赤丸のほうが、格段に品があると思いますけどね。 <生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  2. 2

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  3. 3

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  4. 4

    最後はホテル勤務…事故死の奥大介さん“辛酸”舐めた引退後

  5. 5

    片山さつき財務相“苦しい”言い訳再び…「把握」しながら「失念」などありえない

  1. 6

    ドジャースからWBC侍J入りは「打者・大谷翔平」のみか…山本由伸は「慎重に検討」、朗希は“余裕なし”

  2. 7

    名古屋主婦殺人事件「最大のナゾ」 26年間に5000人も聴取…なぜ愛知県警は容疑者の女を疑わなかったのか

  3. 8

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  4. 9

    高市内閣支持率8割に立憲民主党は打つ手なし…いま解散されたら木っ端みじん

  5. 10

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘