「雑草ラジオ」瀬戸義章著

公開日: 更新日:

「雑草ラジオ」瀬戸義章著

 1970年代後半、イタリアのアウトノミア運動から生まれた「自由ラジオ」は、その後80年代初めに日本でも国家や企業の規制によらない市民の新しいコミュニケーション手段として導入された。その結果、ミニFM局が全国で多数開局した。

 本書の著者はミニFM局の固定基地という枠を取り払い、ラジオ放送に必要な機材すべてをかばんサイズに収めて持ち運べる「バックパックラジオ」のアイデアを生み出した。本書にはこのアイデアが生まれる経緯と、バックパックラジオという小さなメディアが災害地でどのように応用されているかがつづられている。

 1995年の阪神・淡路大震災に襲われた神戸市長田区には在日コリアン、ベトナム人など28カ国におよぶ人々が暮らしていたが、各避難所では言葉の壁によるトラブルが多発していた。そこから生まれたのがベトナム語のミニFM局、FMユーメンだ。その後、スペイン語、タガログ語、英語、日本語も加わり、多文化共生の重要な基地となった。

 こうした先達たちの経験を踏まえて、2014年、東日本大震災の際に世界各地から受けた支援の恩返しを、震災の教訓からテクノロジーでしようという「レース・フォー・レジリエンス」のイベント開催を耳にした著者は「持ち運べるラジオ局」というアイデアを出し、特別賞を受賞。このアイデアを実効化するのに、著者らが注目したのは日本と同じ地震国で火山の噴火で常に危険にさらされているインドネシアだ。

 著者たちはインドネシアを訪れバックパックラジオの実用実験を重ねるが、目の前にはハード面、ソフト面でいくつもの壁が立ちはだかる。それでも試行錯誤の末、実用化になんとかこぎ着けることに。インターネット全盛の時代に、あえて限定的で狭い地域に向けての情報発信というのは、自由ラジオ運動が目指したものの正統な後継者のように思える。 <狸>

(英治出版 1980円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  1. 6

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  2. 7

    豊作だった秋ドラマ!「続編」を期待したい6作 「ザ・トラベルナース」はドクターXに続く看板になる

  3. 8

    巨人・岡本和真の意中は名門ヤンキース…来オフのメジャー挑戦へ「1年残留代」込みの年俸大幅増

  4. 9

    悠仁さまは東大農学部第1次選考合格者の中にいるのか? 筑波大を受験した様子は確認されず…

  5. 10

    中山美穂さんが「愛し愛された」理由…和田アキ子、田原俊彦、芸能リポーターら数々証言