「インフレ課税と闘う!」熊野英生著/集英社

公開日: 更新日:

「インフレ課税と闘う!」熊野英生著

 私はつい最近まで、いまの物価高騰が年末までには落ち着き、来年にはデフレに戻るのではないかと考えていた。国際商品価格がピークアウトし、ウクライナ侵攻前に戻ってきたからだ。しかし本書で著者は、インフレは続くと断言している。物価高をもたらしている今の円安は、一時的な現象ではなく、経済が構造転換したからだという。

 私自身は、いまでも来年のデフレという見方を変えていないのだが、もちろん著者の見通しのほうが正しい可能性も大きい。何より、現時点では著者の分析のほうが現実を言い当てている。ただ、もし著者の言うようにインフレが定着するのだとすれば、家計に大きな負担がのしかかってくる。一つは賃金が物価ほどには上がらないことによる実質所得の減少だ。実際、今年6月の実質賃金は前年比1.6%のマイナス、実質消費支出は4.2%のマイナスになっている。そして、さらに大きな問題は、預金などの金融資産が物価上昇に伴って目減りすることだ。

 それではどうしたらよいのか。著者の処方箋は2つある。1つは、資産を外貨に移すことだ。まず外貨建ての債券投資だ。アメリカの長期国債利回りは4%に達しており、国内債券と比べたら、はるかに高いリターンが得られている。そして、成長力の高い国への株式に分散投資する。そうすれば、リスクを抑えながら高いリターンを得ることが可能になる。その一方で、副業を始めれば、稼ぎが増えるだけでなく、知見を広げることにつながり、稼ぎのリスク分散にもなると著者は言う。

 本書のよいところは、はっきりと物を言い、論理矛盾がないことだ。おそらく著者自身の行動が本書のバックボーンになっているからだろう。著者は副業をすでにやっているし、外貨投資もやっているに違いない。

 ただ一つ気になるのは、著者の主張する構造的円安が続くのかどうかだ。この予測が外れると、急激な円高と株式バブルの崩壊のダブルパンチで大切な資産を失うことになりかねない。著者のビジョンが正しいかどうかは、本書を一読して読者自身で判断して欲しい。その判断は、老後生活を一変させるほど、重要な意味を持つだろう。 

★★半(選者・森永卓郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    本来は「9月左翼構想」だが…大谷が打てば打つほど手術明けの外野守備は前倒しの気配

    本来は「9月左翼構想」だが…大谷が打てば打つほど手術明けの外野守備は前倒しの気配

  2. 2
    真美子夫人も共同オーナーに? 大谷「25億円別荘購入」の次は女子プロバスケチーム買収か

    真美子夫人も共同オーナーに? 大谷「25億円別荘購入」の次は女子プロバスケチーム買収か

  3. 3
    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

  4. 4
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  5. 5
    別居情報を払拭?福山雅治の妻・吹石一恵の幸せ自粛ライフ

    別居情報を払拭?福山雅治の妻・吹石一恵の幸せ自粛ライフ

  1. 6
    堀江しのぶがスキルス性胃がんと判明 余命2か月の宣告に…

    堀江しのぶがスキルス性胃がんと判明 余命2か月の宣告に…

  2. 7
    原田美枝子「女優生活50年」で紫綬褒章の感慨…夫・石橋凌の“隠し子騒動”乗り越えて

    原田美枝子「女優生活50年」で紫綬褒章の感慨…夫・石橋凌の“隠し子騒動”乗り越えて

  3. 8
    政権に忖度するテレビ朝日に「株主提案」で問題提起 勝算はあるのか…田中優子さんに聞いた

    政権に忖度するテレビ朝日に「株主提案」で問題提起 勝算はあるのか…田中優子さんに聞いた

  4. 9
    大谷「DH独占」打ちまくり、週間MVPも…他の野手を休ませられないロバーツ監督のジレンマ

    大谷「DH独占」打ちまくり、週間MVPも…他の野手を休ませられないロバーツ監督のジレンマ

  5. 10
    あえてGWに「裏金不起訴」で大炎上!萩生田光一氏と世耕弘成氏を待つ“市民感覚”の鉄槌

    あえてGWに「裏金不起訴」で大炎上!萩生田光一氏と世耕弘成氏を待つ“市民感覚”の鉄槌