「人口減少時代の農業と食」窪田新之助著、山口 亮子著/ちくま新書

公開日: 更新日:

「人口減少時代の農業と食」窪田新之助著、山口 亮子著

 いま日本の農業と食が危機に瀕していることは、誰の目にも明らかだろう。減少する農業就業人口、増える耕作放棄地、2024年問題で生じる物流危機などで、国内の食料生産が維持できなくなってくる。しかも日本の食料自給率は先進国最低の38%だ。ひとたび海外からの輸入が途絶えれば、即座に日本は食料危機を迎えてしまうだろう。

 私は、そうした事態に対処するためには、1億総農民になって、自給自足に向かうしかないと考え、この3年間一人社会実験を続けてきた。その結論は、全員自給自足は難しいということだ。農業の仕事は、相当厳しいことを実感したからだ。

 そうしたなかで、日本の農業に一筋の光を与えてくれるのが本書だ。

 2人の著者は共に農業ジャーナリストだ。だから、いま現場で実際に起きていることを深く知っている。それを踏まえて書かれているのは、地に足のついた農業未来論だ。地に足がついたと言っても、描かれる未来はかなり大胆だ。農地面積を基幹的農業従事者数で割って1人当たりの面積を計算すると、現状の3.2ヘクタールが2040年には9.3ヘクタールと、約3倍になる。これだけの面積拡大があれば、大型の農業機械も導入できるし、生産性が上がるから農家の所得が増える。

 さらに、ロボットや作業管理アプリの導入、高付加価値作物への転換、冷蔵での貯蔵や輸送、加工食品や海外への販路拡大など、生産性を上げるための手段は無数にある。

 しかも本書で紹介されている改革は、すべて先進的な農家や事業者がすでに取り組んでいるものばかりなので、実現可能性はきわめて高い。

 ただ、これで日本の農業と食が安心ということにはならない。耕地の集約化一つとっても、農家には、先祖伝来の土地という理念を持つ人が多いし、集約が可能な農地ばかりではないからだ。本書が描く「新しい農業」に転換が可能なのは、いまの農業の半分くらいかもしれない。

 もちろんそれでも、改革は、存亡の機にある日本の農業を救う大きな手段となるだろう。日本は、1億総農民の道を歩まずとも、5000万農民ぐらいで、食料安全保障を実現できるかもしれない。

 ★★半(選者・森永卓郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 4

    大山悠輔に続き石川柊太にも逃げられ…巨人がFA市場で嫌われる「まさかの理由」をFA当事者が明かす

  5. 5

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  3. 8

    どうなる?「トリガー条項」…ガソリン補助金で6兆円も投じながら5000億円の税収減に難色の意味不明

  4. 9

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  5. 10

    タイでマッサージ施術後の死亡者が相次ぐ…日本の整体やカイロプラクティック、リラクゼーションは大丈夫か?