上野誠(國學院大學文学部教授)

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9月×日 今井むつみ・秋田喜美著「言語の本質」(中央公論新社 1056円)を読む。スバラシイ。言語は、モノやコトを分類する記号だが、その背後に言語化されない情報があることを教えてくれる1冊。われわれが、カップと湯呑みとを、即座に区別できるのは、日常生活での使い分けがあるからなのだ。うーん、最近の言語学は、言語化しにくい領域まで包み込んで、人間だけが言語を持った理由を考えようとしているのだ。なるへそ。

10月×日 コロナのコの字もなかった5年前。博多は中洲の寿司屋で、藏内勇夫さんと飲んでいたときのこと。いつ、どこでかを予測はできなくとも、人と動物に共通に感染するウィルスによって、パンデミックが起ると思うと、この人は断言した。へぇーと、ただ話を聞くばかり。

 コロナが広がったとき、「えっ、藏内先生!」と声を上げたものだ。アジア獣医師会の会長となった藏内勇夫著「熟慮断行」(文永堂出版 1320円)を読み返す。

 著者の主張は、明快だ。人が健康であるためには、動物も健康でなくては。動物が健康であるためには植物も。つまり、そういう無限の連鎖の中で、常に考え、人間の行動を考えてゆこうというのである。

 一方、わかっていても不合理な行動を取るのが人間という生き物。著者の藏内は、遠謀深慮で政策を立案してゆくのだが──。

10月×日 故・小松政夫のイントネーションは、市街地の博多弁である。対して、タモリは郊外のイントネーション。博多の老舗菓子屋に生まれた歴史家、森弘子の最近刊が「博多のくらし」(海鳥社 1870円)だ。

 血湧き肉躍る男たちの祭り、山笠。亡き人の帰ってくるお盆。著者の記憶の中の民俗が、この1冊の中に蘇る。

 著者は、昭和21年生まれ。それでも、女性が大学に進学するのは、並大抵なことではなかった。ふんわりとした文体に魅了された1冊。

【連載】週間読書日記

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