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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

本店(ほんてん)・本屋の実験室(高円寺)“本気で本屋開業を目指す人”の本棚23本を用意したシェア型本屋です

公開日: 更新日:

 築100年の長屋を改装し、古本+居酒屋の「コクテイル書房」を営む狩野俊さん(52)が昨年5月、シェア型書店を開店。実は私もそこに本棚1つを借り、自著を並べさせてもらっているのだが、8月、3軒目がオープンしたって? ここ「本店・本屋の実験室」のこと。

「隣の3代続いた床屋さんが閉店し、建て替えるとおっしゃったので、『古いまま、修理もうちで』の条件で、うんと安くお借りできたんです」と狩野さん。

 約40平方メートル。真ん中に8人がけのテーブルが置かれ、周囲を幅50センチの7段×23列の本棚が囲む、店名どおり「実験」の店だ。

「シェア型をやってきて分かったのは、函主が利益を出せないこと。ここでは“本気で本屋開業を目指す人”が、四六判なら200冊ほど置ける、縦7段の本棚を借りる形にしました。利益を出してほしいので」

「深呼吸書店」「九月社」など記された屋号に個性

 つまり、本屋開業希望者がはじめの一歩を踏み出す支援。小取次経由で新刊書も仕入れられる仕組みができている。賃料は1万8000円(7段分)と、1冊につき販売手数料2%。破格だ!

 さて、拝見。「深呼吸書店」「ほんだな」「九月社」などと屋号が、思い思いの紙に記され、本棚にくっついている。「ガザとは何か」「ヤンキーと地元」「子どもを連れて、逃げました。」など面陳列本もさまざまだが、じっくり見ると、昭和の文学に強い、タイ語の原書がずらり、思想書が多いなど、各棚の特徴が見えてくる。

「今のところ、テーマをつけるとしたら『大人になるって、どういうことだか考えよう』でしょうか」と、「本屋フォッグ」の飯村諭さん(36)が言う。元中高一貫校の教員と聞き、なるほどなー。

演劇は仕事になるのか?」「母の最終講義」「『知らない』からはじまる」が目に留まった。

 一方、「思想的に、赤い本と黒い本を並べた」と、写真満載の「1932 ある革命ストライキの記録/1938 アナルコシンディカリスモ」を見せてくれたのは「書肆アサンブレア」の函主さん(54)。

「僕もライターなんだけど、年で書けなくなったら本屋やりたいからね」

 本屋側が本気なら、利用客も本気。すでに多い日の来店者数は、40~50人を数えるそうだ。

◆杉並区高円寺北3-5-17/JR中央線・総武線高円寺駅から徒歩6分/12~20時、月曜休み

ウチの推し本

「親切で世界を救えるか ぼんやり者のケア・カルチャー入門」堀越英美著、太田出版 2090円

「ケアの復権」「暗がりから見つめるケア」「家父長制に抗うケア」「絆ではなく『親切』でつながるには」の4章構成。

映画、漫画、小説を通し、ケアをテーマにした本です。子育て中の著者が生活のことを絡めて書いています。10月12日に著者のトークを企画。もうじき委細を発表するので、興味ある方、『本店・本屋の実験室』のXをご覧ください」(本屋フォッグ・飯村さん)

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