著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。2012年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。現在、名古屋芸術大学客員教授として文学や漫画理論の講義を担当。

けっこう仮面(ジャンプ・コミックス版全5巻ほか複数バージョンあり)永井豪作

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けっこう仮面(ジャンプ・コミックス版全5巻ほか複数バージョンあり)永井豪作

 犬や鶏、ウサギやモルモットなど、子どものころ私はたくさんの動物を飼っていたので、後背位の交尾を見ていた。だから何となくソレの存在は知っていた。大人たちの会話の端々からおそらく出産に関係するのだろうということもうすうすと。しかし、しょせんまだ子どもである。わかったようなわからないようなモヤモヤしたものが人生の先に待っている予感だけがあった。

 そこに登場したのが月刊少年ジャンプの「けっこう仮面」である。永井豪先生の渾身のエロだ。こんな作品が少年誌に掲載されていたのが信じられないくらいエロい漫画だ。お尻が見えるとか乳首が見えるとか、そんなレベルではないのだ。

 舞台は有名高校への進学率100%という中学。そこには教師による体罰が横行しており、助けにくるのが、けっこう仮面という名の裸女子なのだ。

 裸といっても頭巾のように頭と顔を覆うかぶりもの、マフラー、手袋、ブーツはつけている。それらはすべて真っ赤で、つまり全裸にこれらの赤いコスチュームだ。

 今でいえばお姉さまの痴女をコンセプトとした風俗の格好である。パンストを手にし、それで亀頭をさわさわしたりこすったりしたら完全な風俗だが、そんなことはしない。

 ターザンのように長いロープを握って飛んできて、大股を広げてそのまま体罰教師の顔に股間をぶつけて、やっつけてしまうのである。全裸で股を広げたら何が見えるのか。どう見えるのか。連載当時小学3年生だった私にわかるわけがない。

 しかもこの技には「おっぴろげジャンプ」という名前までついていた。派生型の技「新月面空中股びらき」とか「おっぴろげ人間風車」とかさまざまあった。さらには「ちっ息〇〇〇〇じめ(原文ママ)」とかそんな名称も出てくる。技を受けた側は「けっこう!」と言いながらぶっ倒れる。今ならゲラゲラ笑えるが何しろこちらは小学生だ。〇〇〇〇にどんな文字が入るのかすらわからない。

 だが永井豪先生が描くその絵を見ていると何となくモヤモヤした。背骨のあたりなのかお尻のあたりなのかわからないがモヤモヤした。どこがモヤモヤしているのか完全に理解したのはこの連載が終わる小学6年から中学1年のころである。

 私世代の青春の目覚めはけっこう仮面とともにあった。

(集英社 品切れ重版未定<eBookJapan版 440円>)


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