著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。

けっこう仮面(ジャンプ・コミックス版全5巻ほか複数バージョンあり)永井豪作

公開日: 更新日:

けっこう仮面(ジャンプ・コミックス版全5巻ほか複数バージョンあり)永井豪作

 犬や鶏、ウサギやモルモットなど、子どものころ私はたくさんの動物を飼っていたので、後背位の交尾を見ていた。だから何となくソレの存在は知っていた。大人たちの会話の端々からおそらく出産に関係するのだろうということもうすうすと。しかし、しょせんまだ子どもである。わかったようなわからないようなモヤモヤしたものが人生の先に待っている予感だけがあった。

 そこに登場したのが月刊少年ジャンプの「けっこう仮面」である。永井豪先生の渾身のエロだ。こんな作品が少年誌に掲載されていたのが信じられないくらいエロい漫画だ。お尻が見えるとか乳首が見えるとか、そんなレベルではないのだ。

 舞台は有名高校への進学率100%という中学。そこには教師による体罰が横行しており、助けにくるのが、けっこう仮面という名の裸女子なのだ。

 裸といっても頭巾のように頭と顔を覆うかぶりもの、マフラー、手袋、ブーツはつけている。それらはすべて真っ赤で、つまり全裸にこれらの赤いコスチュームだ。

 今でいえばお姉さまの痴女をコンセプトとした風俗の格好である。パンストを手にし、それで亀頭をさわさわしたりこすったりしたら完全な風俗だが、そんなことはしない。

 ターザンのように長いロープを握って飛んできて、大股を広げてそのまま体罰教師の顔に股間をぶつけて、やっつけてしまうのである。全裸で股を広げたら何が見えるのか。どう見えるのか。連載当時小学3年生だった私にわかるわけがない。

 しかもこの技には「おっぴろげジャンプ」という名前までついていた。派生型の技「新月面空中股びらき」とか「おっぴろげ人間風車」とかさまざまあった。さらには「ちっ息〇〇〇〇じめ(原文ママ)」とかそんな名称も出てくる。技を受けた側は「けっこう!」と言いながらぶっ倒れる。今ならゲラゲラ笑えるが何しろこちらは小学生だ。〇〇〇〇にどんな文字が入るのかすらわからない。

 だが永井豪先生が描くその絵を見ていると何となくモヤモヤした。背骨のあたりなのかお尻のあたりなのかわからないがモヤモヤした。どこがモヤモヤしているのか完全に理解したのはこの連載が終わる小学6年から中学1年のころである。

 私世代の青春の目覚めはけっこう仮面とともにあった。

(集英社 品切れ重版未定<eBookJapan版 440円>)


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本中学生新聞が見た参院選 「参政党は『ネオナチ政党』。取材拒否されたけど注視していきます」

  2. 2

    松下洸平結婚で「母の異変」の報告続出!「大号泣」に「家事をする気力消失」まで

  3. 3

    松下洸平“電撃婚”にファンから「きっとお相手はプロ彼女」の怨嗟…西島秀俊の結婚時にも多用されたワード

  4. 4

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  5. 5

    俺が監督になったら茶髪とヒゲを「禁止」したい根拠…立浪和義のやり方には思うところもある

  1. 6

    (1)広報と報道の違いがわからない人たち…民主主義の大原則を脅かす「記者排除」3年前にも

  2. 7

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も

  3. 8

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃

  4. 9

    自民党「石破おろし」の裏で暗躍する重鎮たち…両院議員懇談会は大荒れ必至、党内には冷ややかな声も

  5. 10

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」