著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

ねこの手書店(西荻窪)ユニークな店名の新古書店「ウチで買ってウチに売りに来る人が多いんです」

公開日: 更新日:

 ユニークな店名と、スカイブルーが基調の棚の雰囲気から、近頃できた古本屋さんかと思ったが、大間違い。比較的近年に出版された本を扱う新古書店で、「開店30年ほどになります」と店長の戸田岳志さん(47)。「ここに書いているように、変な名前ばかりの同じコンセプトの店が、以前は9軒あって」と渡されたしおりを見てクスッ。中目黒「たらの芽書店」、祐天寺「あたた書店」、高田馬場「キノコノクニヤ書店」……。

「始めたのは、文化的な活動をしている会社。店名は、それぞれ店長がつけたらしいです」

 すてき! しかし、徐々に閉じていって、今残っているのは小岩の「どですか書店」とここだそう。戸田さん自身は、「17年前にバイトで入った」と。「その前は?」「バイトしてお金が貯まったらフランスへ何カ月か行く、の繰り返しだった」といった話をつい。

単行本から文庫、雑誌はアダルトものまで

 店内は約20坪。「思想・哲学」「家庭料理」などと分けられた単行本と、作家別の文庫本の棚も生き生きしている。が、圧倒的に多いのが雑誌だ。「ブルータス」「ポパイ」「&Premium」「健康365」「ミュージック・マガジン」……。古い号だが、新刊書店と遜色なく並び、みな格安。最初はそこに目がいったが、「20年くらい周期で、リバイバルするんです」と戸田さん。例えば2000年代前半のファッション誌「CUTiE」「FRUiTS」の売値が、今や何千円に跳ね上がっているという。

 おっと。店の奥には、アダルト雑誌が、本棚8本にわたって買い手を待っていた。今どき、珍しい。「需要があるからですよね?」と戸田さんに言うと、「ええ。ご年配層に」。人気のジャンルは? 「熟女系ですね。古いものも売れます」とのこと。「エロは古びないんだ」とつぶやく。

 雨の夕刻の訪問だったが、客足が途絶えない。買う人も多いが、買い取り希望の人も1時間に4人来た。「コロナ禍から変わったのは、ウチで買ってウチに売りに来る人が増えたこと」と戸田さん。その好例が、定価510円の「週刊文春」と「週刊新潮」。発売1週遅れの号が220円、1カ月遅れ号が110円で店頭ラックに絶えず並んでいる。

◆杉並区西荻南3-7-7/℡03・5370・9487/JR中央線・総武線西荻窪駅から徒歩2分/12~22時、無休

うちの推し本

「Avec Piano 戦場のメリークリスマス」坂本龍一

「坂本龍一が手がけた映画音楽『戦場のメリークリスマス』(大島渚監督)。そのときのことを中心に、坂本龍一自身が話しています。文字は61ページですが、カセットテープを同梱する“カセット・ブック”。『戦場のメリークリスマス』のサウンドトラックのピアノ演奏バージョンが入っているんです。そういえば、3月末まで東京都現代美術館で『坂本龍一 音を視る 時を聴く』が行われていましたよね」

(思索社 1983年刊 古本売値4400円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  3. 3

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 4

    阪神・大山を“逆シリーズ男”にしたソフトバンクの秘策…開幕前から丸裸、ようやく初安打・初打点

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    創価学会OB長井秀和氏が明かす芸能人チーム「芸術部」の正体…政界、芸能界で蠢く売れっ子たち

  2. 7

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  3. 8

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  4. 9

    大死闘のワールドシリーズにかすむ日本シリーズ「見る気しない」の声続出…日米頂上決戦めぐる彼我の差

  5. 10

    ソフトB柳田悠岐が明かす阪神・佐藤輝明の“最大の武器”…「自分より全然上ですよ」