著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

千章堂書店(阿佐ヶ谷)文豪全集から考古学まで勢揃いの“昔ながら”の古本屋

公開日: 更新日:

 JR阿佐ケ谷駅すぐの「北口アーケード街」の中ほどにある。店頭に、名画パンフレットや「日本の国宝」をはじめ均一本がびっしり。そこに足を止めると、店内のてらわない雰囲気に誘われる。

 実は結構利用させてもらっている。「東京人」のバックナンバーを買いだめしたり、風俗史系を見つけて小躍りしたり。紙袋に本を詰めてきて、1500円ほどになったこともあった。

 そんなこんなを思い出しながら、狭い通路を進む。文芸、社会科学、海外・国内の歴史、美術、考古学などオールジャンルの本が刺さり、その上には文豪たちの全集がどっさり。約10坪の店の最奥にある帳場になんとか到着。「さすが、昔ながらの古本屋さんって感じです」と店主の林高志さん(59)に言うと、「昭和35年に父が始めたときと、基本は変わってないですからね」と。

圧巻は「荒俣宏とその仲間たちの棚」

 かつて大勢の小説家らが住んだ「阿佐ヶ谷文士村」に近い土地柄。

「個人のお客さんから買い取った本を並べています」って、本棚から地域が見える。「昔は中央線各駅に10軒くらいずつ古本屋があり、うちもその一軒でした。ほら」と「古書店地図帖」(1967年、紀田順一郎)を見せてくれる。高円寺、阿佐ケ谷、荻窪、西荻窪の各駅に合計49軒の記載が。ここは、その中で阿佐ケ谷に現存する唯一の店なのだ。

「私は26歳で店を継いだけど、文学は読まない。好きなのは、大学時代に『帝都物語』を読んで以来、荒俣宏」と林さん。この10年ほどで広がったという、いわく「荒俣宏とその仲間たちの棚」が圧巻だ。荒俣宏のあまたの著作に、水木しげる、ロバート・E・ハワードらも。「(荒俣宏の分野の)博物学は、あらゆるものを、こだわって読み解くこと」と、滑らかトーク。「花の図譜」「帯をとくフクスケ」「黄金伝説」「開かずの間の冒険」など、とっつきやすい本を次々教えてくれ、急に興味が出てきた。こういうことがあるから、個人の本屋さんが好きなのよ、とひとり言。

「近くの『ブックオフ』が閉店して、お客さんが増えました。ということは影響を受けていたのでしょうね。気づかなかったけど」

◆杉並区阿佐谷北2-13-19/JR中央線・総武線阿佐ケ谷駅から徒歩1分/℡03.3338.6410/10~21時、水曜休み

ウチの推し本

「広告図像の伝説」荒俣宏著

「その昔、テレビを見るのが当たり前だった時代がありましたよね。元は紙に描かれるものだった広告が、テレビの画面に登場し、見る人たちにブランドイメージが刷り込まれた。森永のエンゼル、花王のお月さま、グリコの“お手上げ”のスポーツマンなど名作商標が、なぜ、どのようにして生まれたか。それぞれ掘り下げて、並べられていて、すごく面白い。常に3冊ほど在庫があるので、いつでもどうぞ」

(平凡社 古本売値600円前後)

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