著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

国葬のようなものから1年、この国の大切なことはムードで決まっていく

公開日: 更新日:

 そう、この国の大切なことはムードで決まっていく。だから政治家も官僚もメディアも財界も、はっきりとしたフォルムのメッセージを打ち出すことには慎重で、ムードに訴えることに余念がない。国民性を変えるよりも、それを逆撫でしない歩の進め方の探求を優先する道理だ。

 全国的にはほとんど無名だった政治家・小川淳也を一躍有名にした2本のドキュメンタリー作品『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』。両作品をヒットさせた大島新監督。彼がプロデューサー・前田亜紀、編集・宮島亜紀とみたび組んで送りだす新作『国葬の日』は、葬儀当日2022年9月27日の国内10都市の様子を淡々と追っていく。首都・東京、故人の地元・下関、古都・京都、被災地・福島、基地の街・沖縄、北の都・札幌、銃撃の地・奈良、被爆地・広島と長崎、そして葬儀直前に大規模な洪水被害が発生した静岡。いろんな街がある。いろんな人がいる。日本はひとつであり、ひとつではないことがよくわかる。

 大島監督は自身の意見やスタンスを表明することに躊躇はない。だがそれを明示しながらも、説明や誘導に終始するような愚を避ける。『なぜ君』『香川1区』にもみられたことだが、作品自体がニュートラルな問いかけとして機能するだけの余地を残すことに意識的であり、とりわけ今回はその「余地」の面積が大きい。いや、余地こそが『国葬の日』の本質とさえ言えるのではないか。そこにぼくはつよく共感した。余地を残す。政治や社会についての意見交換は、本来そうあるべきではないか。いつだってムードは理ではなく情、つまり熱で左右されるものだけれど、だからこそアジテーションと距離を置く政治ドキュメンタリーがあってもいい。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  2. 2

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  3. 3

    阪神・佐藤輝明が“文春砲”に本塁打返しの鋼メンタル!球団はピリピリも、本人たちはどこ吹く風

  4. 4

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も

  5. 5

    広末涼子「実況見分」タイミングの謎…新東名事故から3カ月以上なのに警察がメディアに流した理由

  1. 6

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃

  2. 7

    国保の有効期限切れが8月1日からいよいよスタート…マイナ大混乱を招いた河野太郎前デジタル相の大罪

  3. 8

    『ナイアガラ・ムーン』の音源を聴き、ライバルの細野晴臣は素直に脱帽した

  4. 9

    初当選から9カ月の自民党・森下千里議員は今…参政党さや氏で改めて注目を浴びる"女性タレント議員"

  5. 10

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」