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北島純映画評論家

映画評論家。社会構想大学院大学教授。東京大学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹を兼務。政治映画、北欧映画に詳しい。

真田広之『SHOGUN 将軍』はこう見るべし! エミー賞18冠の要因、楽しむためのポイント

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 原作小説「将軍」やそのドラマ化(1980年)は東西分断を前提とした旧冷戦下に出版・公開されたものだったが、現代は「グローバル化」を前提とした上で徐々に「分断」が進みつつある時代だ。異文化間のコミュニケーションを巡る描写は繊細さを要求されるようになっている。特にコロナ禍以降は世界中から日本に観光客(インバウンド)が押し寄せ、高層ビルと寺社仏閣が共存する風景に驚嘆し、礼節を重んじる日本文化が称賛を浴びている(円安もあるが)。この作品は、「サムライ」「ニンジャ」「ハラキリ」といった強調描写が残るものの、全体としては細心の注意をもって日本人蔑視、東洋趣味(オリエンタリズム)のにおいが払拭された上で、日本が「再発見」されるような鑑賞体験を提供している。「異なる文化がいかに交流できるのか」という今の時代に見合った問題関心を脚本に取り込んだことが成功した要因だろう。

 主人公の吉井虎永を演じた真田広之(主演男優賞)の抑制が利いた演技と美しい所作も素晴らしい。耐え難いような重荷を背負う通詞・戸田鞠子役のアンナ・サワイ(主演女優賞)や抜け目のない伊豆領主・樫木藪重役の浅野忠信らの演技も冴え渡っているが、特筆すべきは太閤側室の「落葉の方」を演じた二階堂ふみの演技だ。その存在感、目線の動き、連歌を詠む声は権力の存亡を懸けた人間群像劇に比類なき深みを与えている。美術セットは豪華絢爛だが全体の描写はダークな色調で、武家社会の峻厳、死と隣り合わせの戦国時代の日常がよく表現されている。派手な合戦シーンもなく、「ゲーム・オブ・スローンズ」の対極にある重厚な歴史ドラマだ。

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