ロンドンの家賃は平均40万円! 新刊上梓のブレイディみかこさんが伝えたいこと

公開日: 更新日:

少し前から“困った犬”を飼うことに

 ただ、困ったことに1カ月くらい前から犬を飼い始めました。面倒をみなくちゃいけないから遠出ができない。しかも、これが困った犬で(笑)。ある日、暑いから開けっ放しにしていた玄関から勝手に入って来まして。配偶者に「犬がいるぞ」と言われて見たら白い尻尾を振りながらこっちを見ていた。

 配偶者と「うちの犬になる気かな」と笑ってたけど、毛並みはすごくキレイだし、爪もきちんとケアされている。「首輪はないけど、絶対に飼い犬だよね」と言ってたんです。

 イギリスでは自治体に連絡すると犬を保護してくれる部署があります。そこに電話をして保護してもらいました。飼い犬にはマイクロチップを埋め込むことが義務化されているので、誰に飼われていたかわかるようになっています。きちんと飼ってなくて逃げた場合、迎えに行った時に1日目分として日本円にして2万円以上、2日目からは1万円とか、罰金を取られる。罰金が増えるから大抵は初日に来るらしいけど、来ない人もいるらしい。自治体が保護するのは7日間で、それを過ぎると別の飼い主を探すのがルールになっている。

 うちの犬はどうも来なかったらしくて、自治体から「引き取りませんか」と電話がかかってきた。配偶者が「かわいいから飼ってもいいよ」と言ってたらしくて。それで家の低かった柵を高い柵にしたりして飼うことになったんです。

 その間にわかったのですが、近所のコミュニティーがやっているFacebookを見たら彼が何度も登場する。どこかの家の居間でテレビを見てたり、子供と庭でサッカーをしてたり。パブでくつろいでいる写真もあった。要するに何度も逃げている、逃亡の常習犯。でも、人懐こくてどこにでも入って行く。息子がいなくなって夫婦2人だけになったところに、面倒なやつがやってきたなという感じです(笑)。

■リタイアしてから本屋やカフェを始めるのが人気

 配偶者の同世代の友人夫婦を見ているといろんなところに旅行する人が多いですね。それから最近人気なのがリタイアした女性たちが一緒に本屋さんやカフェを始めたりすること。ボランティアに精を出す人も多いですね。私もフードバンクでボランティアをやっています。昼間働いている人は土日しか参加できないけど、大学生やリタイアした人で時間に余裕がある人がやっている。おじいちゃんが女子大生と一緒に受付のカウンターに座ってたり(笑)。

 ただ、経済的な問題は大きいですね。とても公的な年金だけでは生活できない。働いている人は民間の保険会社に個人年金を積み立てている人が多いですね。

 物価高もすごい。とくに住宅です。住宅不足でハウジング・クライシスと言われています。ロンドン市内の家賃の平均は日本円にして40万円を超えています。普通の人は住めないです。若い人のデモが起きたりしています。排外主義の背景には住宅危機があるといわれていますね。

 でも、上の世代はまだいいんです。若い時に買った住宅が値上がりし、それを売って田舎に引っ越して浮いたお金で旅行したり貯金したり。それで親世代と若い人の間で世代間断絶が起きている。ただ、上の世代も例えば配偶者は65歳から年金が下りたけど、私は67歳までもらえないとか。まだまだ働かないといけない。日本は世界でも高齢化が先行しているけど、どこも流れは同じです。

■新刊で伝えたいのは社交力や「よかたい」みたいな寛容性でつながる力

SISTER“FOOT”EMPATHY」というタイトルはダジャレですね(笑)。女性の連帯の意味のSISTERHOOD(シスターフッド)は近年よく聞く言葉です。それとEMPATHY(エンパシー)は共感という意味、他人の靴を履いて感じてみようということです。女性の連帯と足元、FOOTへのこだわりをかけ合わせたものです。

 本の冒頭のエピソードは1975年10月24日にアイスランドで行われた「ウィメンズ・ストライキ」について。女性たちが午後2時38分に仕事を終わらせ、抗議活動を行いました。それぞれの立場や、政治的な考えといった違いを乗り越え、90%もの女性が参加して大きな動きになりました。一方、現代ではフェミニズムはSNSなどで異なる考え方により分断や対立も見られる。違いを乗り越えてみんながまとまっていくには、足元から緩くつながっていくのがいいんじゃないかなということを考察した本です。

 その基盤になれるのは、会社でも家庭でもない、サードプレイスといわれる場所。さっきも言ったようにリタイア後にそういうものを作ろうという女性はものすごく多い。地元で一つに集まることができるハブのようなものです。日本にもいっぱいできたらいいなと思います。

 大切なのはSNSで数値化できる個人の人気や影響力ではなく、本当に人と人がつながる社交力を鍛えること。社交力は数値化できないけど、これからはそういうものを育てていかないといけない。少し違いはあったとしても、ここぞという局面では「よかたい」みたいな寛容性でつながる力です。

 SNSはアルゴリズムで一方的な流れができていき、どんどんとがってしまう。一度SNSをやめてみたらどうか。社交力を磨いてみんなで周りの人ともっと話し合った方がいいと思います。

 (聞き手=峯田淳)

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    「汽車を待つ君の横で時計を気にした駅」は一体どこなのか?

  2. 2

    沢口靖子「絶対零度」が月9ワースト目前の“戦犯”はフジテレビ? 二匹目のドジョウ狙うも大誤算

  3. 3

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  4. 4

    国分太一は人権救済求め「窮状」を訴えるが…5億円自宅に土地、推定年収2億円超の“勝ち組セレブ”ぶりも明らかに

  5. 5

    創価学会OB長井秀和氏が明かす芸能人チーム「芸術部」の正体…政界、芸能界で蠢く売れっ子たち

  1. 6

    “裸の王様”と化した三谷幸喜…フジテレビが社運を懸けたドラマが大コケ危機

  2. 7

    森下千里氏が「環境大臣政務官」に“スピード出世”! 今井絵理子氏、生稲晃子氏ら先輩タレント議員を脅かす議員内序列と評判

  3. 8

    人権救済を申し立てた国分太一を横目に…元TOKIOリーダー城島茂が始めていた“通販ビジネス”

  4. 9

    大食いタレント高橋ちなりさん死去…元フードファイターが明かした壮絶な摂食障害告白ブログが話題

  5. 10

    菅田将暉「もしがく」不発の元凶はフジテレビの“保守路線”…豪華キャスト&主題歌も昭和感ゼロで逆効果

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  2. 2

    巨人・桑田二軍監督の電撃退団は“事実上のクビ”…真相は「優勝したのに国際部への異動を打診されていた」

  3. 3

    クマ駆除を1カ月以上拒否…地元猟友会を激怒させた北海道積丹町議会副議長の「トンデモ発言」

  4. 4

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  5. 5

    クマ駆除の過酷な実態…運搬や解体もハンター任せ、重すぎる負担で現場疲弊、秋田県は自衛隊に支援要請

  1. 6

    露天風呂清掃中の男性を襲ったのは人間の味を覚えた“人食いクマ”…10月だけで6人犠牲、災害級の緊急事態

  2. 7

    高市自民が維新の“連立離脱”封じ…政策進捗管理「与党実務者協議体」設置のウラと本音

  3. 8

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 9

    恥辱まみれの高市外交… 「ノーベル平和賞推薦」でのトランプ媚びはアベ手法そのもの

  5. 10

    引退の巨人・長野久義 悪評ゼロの「気配り伝説」…驚きの証言が球界関係者から続々