圧倒的な薬剤不足の環境でもオフポンプで冠動脈バイパス手術をやりきった
8月中旬に4泊6日の日程でベトナムに単身で出向き、3施設で4例の手術を行った話を続けます。
ひとりで渡航したのは、現地のスタッフと一緒に手術をすることで、ベトナムの若手医師たちに自分の技術や経験をより多く伝えたいという“狙い”がありました。ほかにも、患者さんを犠牲にすることなく、現地の医療に何が足りないかを見つけ、日本とはどのくらいギャップがあるのかを体感する――。そんな目的も持っていました。
1人目の患者さんは狭心症で、首都ハノイ市にある108国防軍基幹病院で冠動脈バイパス手術を行いました。「108」というのは部隊名と関連しているそうです。
日本でも普段から実施している心臓を動かしたまま行うオフポンプ手術を選択したのですが、薬剤の不足に苦労させられました。オフポンプを行う際、2ミリ以下の細い血管をつなぎ合わせる関係でβ遮断薬という薬剤を使って心臓の拍動を抑えて処置を行います。心臓の拍動が通常のままだと、それだけ操作が難しくなり、繊細な縫合が困難になるので難易度がアップします。