「いかなる状況でも、次へのチャンスだと前向きに考え直す」

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自分を過少評価しない

 人気俳優の三浦春馬さん(30)が亡くなり、ショックを受けた人も多いのではないか。人は死にたいという気持ちと生きていたいという気持ちの間を揺れ動いている。絶望の淵に立ち、解決策を見いだせず一人苦しんでいる人のなかには、有名人の死をキッカケに自らの命を縮めてしまう人もいるかもしれない。しかし、絶望に思えることも考え方さえ変えれば、解決策はあるものだ。自殺について考えながら、人に相談したことで思いとどまることができた人も多い。多くの命と向き合い、つないできた3人の僧侶に、具体的に悩み事をどう考えればいいのか、を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

【Q】非正規雇用で長年働いてきましたが、このコロナ禍で3カ月自宅待機させられた上に、契約終了を言い渡されました。年齢のこともあり再就職もままならず、今後どうやって生計をたてていいか分かりません。まったく先が見えず、いい考えも浮かばなくなっています。

【A】私の相談における対応方法は、相談者から経緯や状況、それに関する思いを聞き、、こちらから質問を重ねていくことで、苦しみの本質と解決方法を明らかにしていくものです。ですから、このような紙上の一方的な回答では十分やりとりが深められないところがあるのですが、少しでも読んでいただく方のお役に立てるならば、と思い回答させていただきます。

 人生における問題の対処法としては、まず何が苦しいのか、その苦しみの原因は何か、そしてその苦しみから脱するための道理は何なのかを明らかにし、その上でそれを具体的に実践していくことになります。これを仏教では四聖諦(ししょうたい)といいます。同時に、その状況における思いを十分に吐露して頂くこともとても大事なことです。

 いま、この方に何が苦しいのかとお尋ねしたら、まず収入がなくなり、お金がなくなって苦しいのだというお答えが返ってくるでしょう。また、もしかしたら単にそれだけではなく、失業したということがいままで積上げてきたものをすべて失ってしまったという苦しみにつながっているのかもしれません。さらに、ここでは想像もできないご経験や思いを抱え、それらがこの状況において、全てなし崩しにされてしまった表現しきれないものを抱えておられることでしょう。ここまでよく頑張ってこられましたね。

 さて、対話をする上では、この人は自分のことを分かってくれようとしているという安心感をもっていただく。共感されたと感じていただくことは、大前提となります。まず相談者にとって大切なことは、ここまで努力してきたことによる疲れを癒すべく休息すること。これまでのご自分の努力を労ってあげることです。

 その上で考えたいのが、失業手当を受けるため、そして就活をするための精神的立ち直りです。失業したらまず失業手当を申請して、次に就活をしなければなりませんが、失業したことによるショックから、なかなかそのような具体的な行動に移ることができないでいるかもしれません。行動するための力を得るためにも、まずは疲れを癒すべく休息することが必要なのですが、このときにいまが人生の死活問題だと切羽詰まった気持ちでいるよりも、「どうにかなるだろう」と力を抜いてゆったり構えている方が、その後の運びは良いようです。人生とは、思い通りに物事が進まないという不確実性の連続です。なので、不確実性への耐性を鍛え上げ、いかなる状況においても、次へむかうためのチャンスだと前向きに考え直すスタンスを身につけることも大切です。その際、自分の対処能力を過小評価しないこと。そして、目標に近づくためのひとつひとつの経験がすべて自分の生きる糧となるということを心得るべきだと思います。

 失業などの大きなショックや負担を経験すると、大抵の人は負の感情を抱きますが、この負の感情にもてあそばれることのないよう、自分の力を信じ、目標を設定することが大切です。生きる方法は必ず見つかります。

 先の見えない今に、良い考えも浮かなばい状況で「こんなはずじゃなかった」そんな思いにかられているかもしれません。しかし、その孤独も葛藤も遅すぎる時の流れも「そういうものだ」としなやかに受け止め、その身を善く活かしきると決めたなら、あなたは今を生きられます。明日はあなたに微笑みかけてくれます。

▽前田宥全(まえだ・ゆうせん) 東京都港区「正山寺」住職。一般財団法人メンタルケア協会精神対話士。1970年、東京都生まれ。大学卒業後、永平寺での修行を経て、現職。1991年から「あなたのお話 お聴きします」の活動を始める。「自死・自殺に向かい合う僧侶の会」共同代表。

【連載】絶望してはいけない 命をつなぐ僧侶の言葉

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