著者のコラム一覧
荒川隆之薬剤師

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

【ボツリヌス症】毒素が持つ麻痺作用を利用して治療薬としても使われる

公開日: 更新日:

 前回、ボツリヌス症についてお話ししました。ボツリヌス菌が食品などの中で産生する毒素によって、吐き気、嘔吐、視力障害、言語障害、嚥下困難などさまざまな症状がみられる病気です。

 この毒素は、神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を阻害し、全身の筋肉で弛緩性麻痺を引き起こします。ボツリヌス症による死亡の原因は呼吸失調によるものが多く、致死率が他の食中毒と比べてかなり高いとされているのは、そうした毒素の作用が大きいといえます。

 一方で、ボツリヌス毒素はその高い麻痺活性を利用し、ジストニアや痙縮といった体の筋肉が異常に緊張することで起こる病気の治療薬として臨床応用されるようになりました。ボツリヌス毒素が筋肉に分布している神経の働きをブロックする特徴を利用して、筋肉の過度の緊張や突っ張りを和らげる治療法は「ボツリヌス毒素療法」と呼ばれています。

 痙縮が起きて手足の動きや日常生活に悪影響を与えている筋肉に、ボツリヌス毒素を注射することによって痙縮の症状が抑えられ、滑らかに動かすことができるようになるのです。

 最近は、筋肉のこわばりを取るためだけでなく、美容治療において表情筋などをターゲットにした“シワ取り注射”としてボツリヌス毒素が使われるケースも増えてきました。ただ、ボツリヌス毒素注射の効果持続期間は3~4カ月程度といわれており、繰り返し注射を行う必要があります。

 また、ボツリヌス毒素を含む医薬品は「毒薬」に分類されているため、医療機関での管理に注意が必要です。使用した注射器は次亜塩素酸による毒素の不活化処理を行うことも求められています。

 私は以前、注射器の不活化処理を行っている最中に、注射器で自分の指を刺してしまった経験があります。こうした事例は「針刺し事故」と呼ばれ、患者の血液が付着している注射針を自身に刺してしまった場合、HIVやB型肝炎などの感染症にかかるケースもあるのです。その時の私は、幸いにもそうした感染症にはかかりませんでした。

 このようなリスクもあり、注射器の毒素の不活化処理には細心の注意が求められるのです。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    国分太一コンプラ違反で無期限活動休止の「余罪」…パワハラ+性加害まがいのセクハラも

  2. 2

    クビ寸前フィリーズ3A青柳晃洋に手を差し伸べそうな国内2球団…今季年俸1000万円と格安

  3. 3

    高畑充希は「早大演劇研究会に入るため」逆算して“関西屈指の女子校”四天王寺中学に合格

  4. 4

    「育成」頭打ちの巨人と若手台頭の日本ハムには彼我の差が…評論家・山崎裕之氏がバッサリ

  5. 5

    進次郎農相ランチ“モグモグ動画”連発、妻・滝川クリステルの無関心ぶりにSNSでは批判の嵐

  1. 6

    「時代と寝た男」加納典明(19) 神話レベルの女性遍歴、「機関銃の弾のように女性が飛んできて抱きつかれた」

  2. 7

    吉沢亮「国宝」が絶好調! “泥酔トラブル”も納得な唯一無二の熱演にやまぬ絶賛

  3. 8

    ドジャース大谷「二刀流復活」どころか「投打共倒れ」の危険…投手復帰から2試合8打席連続無安打の不穏

  4. 9

    銘柄米が「スポット市場」で急落、進次郎農相はドヤ顔…それでも店頭価格が下がらないナゼ? 専門家が解説

  5. 10

    ドジャース佐々木朗希 球団内で「不純物認定」は時間の問題か...大谷の“献身投手復帰”で立場なし