(51)それ私のセーターでしょ? 少し笑っているように見えた

公開日: 更新日:

 施設に入って1年後、四肢マヒの寝たきりになり嚥下が難しくなってきた母に、ケアマネジャーの提案で言語聴覚士による嚥下訓練を導入した。週に1度、訓練が行われることになった。

 効果が出るかどうかはわからなかったが、母のQOL(生活の質)を一気に下げてしまう経鼻経管栄養や胃瘻を避けたくて、わずかな可能性にかけることにした。

 結果は、予想を上回るものだった。

 熊本に帰省し、一度、訓練の様子を見せてもらったことがある。口をすぼめて風車を吹いて回したり、ボールを首に挟んで力を入れたり、カードの絵を見て、それが何であるか次々に答えたりするというものだった。

「れいぞうこ」「せんぷうき」「そうじき」……と真面目に答える母を見て、うれしくなった。幼い頃に言葉を学ぶ私を、かつて母もこんなふうに喜んで見ていたのかもしれないとふと思った。

 その後、自発的な言葉が出るようになった。スマートスピーカーで機嫌を伺うと、相撲中継を見ながら好きな力士の成績を語ったり、テレビニュースの感想を述べたりした。やがて右手が動くようになり、スプーンで食事をとれるまでに回復した。表情はほぼないものの、目に光が戻り、母は明らかにここに戻ってきたように見えた。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  2. 2

    長嶋一茂は“バカ息子落書き騒動”を自虐ネタに解禁も…江角マキコはいま何を? 第一線復帰は?

  3. 3

    トリプル安で評価一変「サナエノリスク」に…為替への口先介入も一時しのぎ、“日本売り”は止まらない

  4. 4

    "お騒がせ元女優"江角マキコさんが長女とTikTokに登場 20歳のタイミングは芸能界デビューの布石か

  5. 5

    【独自】江角マキコが名門校との"ドロ沼訴訟"に勝訴していた!「『江角は悪』の印象操作を感じた」と本人激白

  1. 6

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  2. 7

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  3. 8

    99年シーズン途中で極度の不振…典型的ゴマすりコーチとの闘争

  4. 9

    27年度前期朝ドラ「巡るスワン」ヒロインに森田望智 役作りで腋毛を生やし…体当たりの演技の評判と恋の噂

  5. 10

    今田美桜が"あんぱん疲れ"で目黒蓮の二の舞いになる懸念…超過酷な朝ドラヒロインのスケジュール