(51)それ私のセーターでしょ? 少し笑っているように見えた

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 施設に入って1年後、四肢マヒの寝たきりになり嚥下が難しくなってきた母に、ケアマネジャーの提案で言語聴覚士による嚥下訓練を導入した。週に1度、訓練が行われることになった。

 効果が出るかどうかはわからなかったが、母のQOL(生活の質)を一気に下げてしまう経鼻経管栄養や胃瘻を避けたくて、わずかな可能性にかけることにした。

 結果は、予想を上回るものだった。

 熊本に帰省し、一度、訓練の様子を見せてもらったことがある。口をすぼめて風車を吹いて回したり、ボールを首に挟んで力を入れたり、カードの絵を見て、それが何であるか次々に答えたりするというものだった。

「れいぞうこ」「せんぷうき」「そうじき」……と真面目に答える母を見て、うれしくなった。幼い頃に言葉を学ぶ私を、かつて母もこんなふうに喜んで見ていたのかもしれないとふと思った。

 その後、自発的な言葉が出るようになった。スマートスピーカーで機嫌を伺うと、相撲中継を見ながら好きな力士の成績を語ったり、テレビニュースの感想を述べたりした。やがて右手が動くようになり、スプーンで食事をとれるまでに回復した。表情はほぼないものの、目に光が戻り、母は明らかにここに戻ってきたように見えた。

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