(2)「スピルオーバー」とは何か…世界中の学者が北極圏に注目
研究チームは北極圏最大の湖、ヘイゼン湖の土壌のDNAやRNAを採取・分析し、既知のウイルスや宿主となる動植物、真菌類と一致する特徴的遺伝子を特定。湖にどんなウイルスや動植物がいて、どんなウイルスがスピルオーバーリスクが高いかを分析した。結果、氷河が解けて流れ込む水が多い場所ほどそのリスクが高かった。気候変動に伴い動物の生息地が北に移ることで、ウイルスを持つ動物と人間が接触する機会が増え、北極圏におけるスピルオーバーリスクが高くなる可能性があると指摘した。
「こうした指摘は重要です。ただし、脅威が現実となっていない現時点では、警戒すべきは感染爆発が繰り返されてきた熱帯地域だと考えています。とくにアジア地域は世界で最も高い経済的ポテンシャルがあり、猛烈な勢いで森林開発が進行中。人口密度も上昇しており、野生動物との接点が増えることでスピルオーバーが生じやすい環境が整っているのです」(森田教授)
実際、温暖化により、昆虫介在性の感染症が拡大し続けている。例えばマダニは十数種類の感染症を媒介し、今年に入ってネコを診察していた獣医師が亡くなったり、静岡県内で農作業中に日本紅斑熱になったり、草刈り中の人が重症熱性血小板減少症候群(SFTS)にかかったことなどが報じられた。もともとシカやイノシシに寄生するマダニは、それが猫や犬といったペットや、人間にも影響を及ばすようになり、最近ではヒトからヒトへの感染も確認されている。