認知症は“特別な薬”を待つより生活習慣病の治療が先決
「この薬は血糖上昇を抑制するだけでなく、AMPK-AICARシグナルを活性化して免疫細胞による老化細胞の除去を促進している可能性があるからです。その結果、慢性的な炎症性サイトカインが減少し、微小血管障害や神経細胞の変性・老化が抑えられ、認知機能の維持につながるのではないか、というのです」
AMPKとは、体の中の細胞内にあるエネルギーの見張り番のようなタンパク質。細胞内のエネルギー通貨であるATPが減ると、細胞内のエネルギーの産生を促進するとともにエネルギーの消費を抑制する方向に働く。AICARはこれを活性化する代謝産物で、SGLT2阻害薬の投与により、増大することが報告されている。つまり、SGLT2阻害薬はAMPK-AICARシグナルを発動させ、老化細胞の除去につながり、認知機能の維持にも役立つ可能性があるというわけだ。
実際、日本の順天堂大学の研究チームがマウス実験で早老症マウスの寿命延長などを確認している。
ここ数年、日本を除いた欧米では認知症の有病率が低下しているとの研究が複数公表され、一部先進国では認知症がピークアウトを迎えたのではないか、との見方もある。それは新たな生活習慣病の治療法開発のおかげかもしれない。
いまは認知症を予防する何か特別な薬の出現を待つより、まずはありふれた病気の治療にまじめに向き合うのが先決だ。