(49)悩んだ末に母の車を手放す決断をした…単なる道具ではなかった

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 車を処分することは、母の元気な姿をひとつ、現実から消すことでもあった。このところ嚥下が難しくなり、食事や水分の摂取にも介助が必要になってきている。もう以前のように、車で一緒に近所の温泉に出かけたり、ドライブしたりすることはないのだという事実が重くのしかかる。

 しかし、元気だった頃の母に執着するのはもうやめようと思えたのは、この車を手放す決断をしたからかもしれない。

 もちろん、車がなければ実家に帰ったときは不便になる。母の入所している施設は、実家から車で10分もかからないが、公共交通では大きく遠回りになるうえ、歩けば30分以上かかってしまう。気持ちを晴らすために、車でふらりと海や山へ流すことも、もうできなくなる。

 それでも、母の人生の後半に最後まで寄り添ったこの一台を、感謝とともに見送ることができて、少しだけ、私の心も整ったような気がした。 (つづく)

▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。

【連載】突然、母が別人になった

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