著者のコラム一覧
下山祐人あけぼの診療所院長

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

「最期の時を自宅で」との願いに込められたさまざまな物語

公開日: 更新日:

 その都度ご家族の気持ちを確認することは、とても重要です。私たちが「大丈夫だろう」と判断し、自宅療養を進めてしまうと、あとあと後悔やわだかまりを残すことにもなりかねません。

「もし難しくなれば、飲み薬をテープや座薬に切り替えることもできます」(私)

「そうですね。でも、まだ飲めているうちは……」(妻)

「では今回は、テープと飲み薬の両方を処方しておきましょうか」(私)

「はい、お願いします」(妻)

 薬を口から飲むことも難しくなりつつあるご主人の状態を、奥さまはすぐには受け入れられないご様子でした。その後、次第に薬だけでなく、薄いトーストやプリンさえも咀嚼できなくなっていきました。

 そして3日後、訪問看護師から、患者さんの呼吸が停止したとの連絡が入りました。

 残された奥さまにとって、できる限りこまめに寄り添い、献身的に看護を続け、無理をすることなく自然な形でご主人を看取ることができたこと、そして最期までご自宅で同じ時間を過ごせたことは、きっと大きな心の支えになっていくことでしょう。

「人生の最期の時を自宅で過ごしたい」という素朴な願いの中には、実にさまざまな物語があります。その物語をご家族とともに紡いでいくこともまた、在宅医療が担う大切な役割なのだと、私たちは改めて感じるのでした。

【連載】老親・家族 在宅での看取り方

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