立岩陽一郎
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立岩陽一郎ジャーナリスト

NPOメディア「InFact」編集長、大阪芸大短期大学部客員教授。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを経て現職。日刊ゲンダイ本紙コラムを書籍化した「ファクトチェック・ニッポン 安倍政権の7年8カ月を風化させない真実」発売中。毎日放送「よんチャンTV」、フジテレビ「めざまし8」に出演中。

バイデン大統領の発言はもっと日本で報じられるべき 随所にロシア軍を揺さぶる内容が

公開日: 更新日:

 前回、日本で報じられないバイデン米大統領の発言を取り上げた。その状況はまだ続いている。4月28日(米現地時間)のバイデン氏の発言は日本でも一部が報じられたが、報じられていない部分に知っておいてよい情報があるので書いておく。

 この会見は、ウクライナに対して追加の支援を議会に求めたことを踏まえてのものだった。ここでバイデン氏はまず、次のように話して米メディアに触れている。

「報道機関が戦場に残り、日々報道し続けるその勇気をアメリカの報道機関について語りたい」

 そして次のようにも語っている。

「仮に我々がそうした情報を得ていなかったとしたら、違った世界になっていただろう。違った状況になっていただろう」

 ヒヤリとする発言だ。もちろん、メディアがバイデン氏に利用されたという一種の陰謀論を書くつもりはない。しかしCNNをはじめ、多くのスター記者がロシア軍の侵攻直後にはロシア軍の迫る首都キーウのみならずロシア軍の主要な攻撃目標とされたオデーサなどからも中継を出している。防空壕に避難していたゼレンスキー大統領の単独会見もCNNで報じられた。結果的に、それが西側の対ロ包囲網を形成するのに大きな役割を担ったことは恐らく間違いない。それをバイデン氏自らが語ったことは、記録しておく必要がある。

 ただ、この会見で私が驚いたのは次の2点だ。一つはアメリカによる武器供与について次のように語った点だ。

「我々は数千もの対戦車ミサイル、対空ミサイル、ヘリコプター、ドローン、グレネードランチャー、機関銃、小銃、レーダーシステム、そして5000万発を超える弾薬を送った」としたうえで、次のように話した。

「アメリカは単独で、ウクライナに入ったロシア軍戦車1台に対して10の対戦車ミサイルを供与した。10対1だ」

 私は軍事的な専門家ではないが、普通に考えたらロシアとウクライナの軍事バランスが報道とは異なる内容ではないか。もちろん、ウクライナ軍がその全てを駆使しているわけではないだろう。しかしロシア軍の戦車隊から見たらどうだろうか。自分たちの戦車を10の対戦車ミサイルが狙っている……考えただけでも正気を失いそうな数字だ。

 前回、ポーランドに配備されたアメリカ軍が精鋭かつ強襲目的の第82空挺団であることを書いたが、バイデン氏の発言には、ロシア軍を揺さぶるような内容が随所に含まれている。そして恐らくその数字は嘘ではない。

ポーランドとブルガリアへの天然ガス供給で日本は主要な役割を担う

 もう1点は日本に触れた点だ。ロシアから天然ガスの禁輸措置を受けたポーランド、ブルガリアへの対応を記者から問われた時の答えだ。

「Poland has indicated they have significant reserves of gas that they have planned for, as does — not as much, but as does Bulgaria. And we have worked with our allies, from Japan on, to say that we may divert our sale of the natural gas that we’re sending to those countries and divert it directly to Poland and Bulgaria.」

 これは訳に多少の違いは出るだろうが、要は、ポーランドとブルガリアが失うロシアからの天然ガスの供給について各国で協力して対応するとし、その中で特に日本をその主要な供給源として挙げているということだ。それが事実かどうかを判断する情報は私は持たないが、少なくともこの記者会見に出た記者はそう受け取ったはずだ。

 バイデン政権が日本に対し輸入天然ガスのEUへの振り向けを要求したということは、2月初旬に日本でもニュースになっている。その時、萩生田経済産業大臣は「国民生活に影響を与えない範囲を確保したうえで」と断ったうえで、「一般論として国際社会にどういう貢献ができるか検討していきたい」と話している。しかしバイデン氏の発言は、既に日本がその主要な役割を担うという認識を示したものだ。この点に対する日本政府の受け止めも含め、日本で報じられてもよい気がする。

 これらが日本で大きく報じられなかったのは、単に優先順位が低かったからということになる。その判断を批判する必要はない。なるべく多様なメディアがさまざまな側面を事実に即して報じることが重要だろう。前回も伝えたが、アメリカ合衆国大統領の会見の記録はネットで確認できる。是非、確認して欲しい。

 https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/

 私が取り組んでいるファクトチェックは、まさに公的な文書によって事実を確認する作業だ。そのファクトチェックで、岸田首相が「消費税を更に19%に増税する」と発言したとする情報がネット上で拡散し、大学生のメンバーが調べてくれた。これも、バイデン氏に関するものと同じで、岸田首相の発言を記者会見などで確認する作業だ。

 その結果、そうした発言はなかった。そもそも記者会見で消費税について岸田首相は発言をしていない。もちろん、岸田首相が発言したすべてを確認できているわけではないが、仮に消費税についてどこかで発言していれば報道されているだろうし、記者会見で質問が出ているはずだ。岸田首相に近い人物(取材に応じたことを明らかにできないために匿名にしています)にも発言を確認してもらったが、そうした発言はなかった。

 この発信はある種の意図をもって流された虚偽情報、つまりフェイクニュースと判定してよいだろう。

安倍元首相側はフェイク情報拡散を気に留めず?

 このファクトチェックで最近、妙なことが起きている。これは、安倍元首相をめぐって本人が発言してない内容が拡散した時のことだ。完全なフェイクニュースだが、その拡散を安倍元首相の側が気にしていないのだ。

 例えば、「岸田政権では北朝鮮から国民を守れない 私はいつでも総理大臣の座に戻る用意がある」と安倍元首相が発言したとされるが、事実ではない。

 https://infact.press/2022/04/post-19849/

 安倍元首相がロシア軍のウクライナ侵攻を念頭に、「中国も台湾に同じようなことをやっている。私はいつでも総理大臣に戻る準備がある」と発言したとする内容もあった。これも事実ではない。

 https://infact.press/2022/03/post-19507/

 いずれも「ツイッター速報 〜BreakingNews」が流したものだ。「朗報」などとも書いている。

 取材した印象だが、安倍元首相の側はこの情報の拡散をあまり気に留めていないようだ。例えば以前、当時防衛大臣だった河野太郎議員の虚偽の情報が拡散した時は、河野氏は「誰だ、こんな嘘を流すのは」と怒りを露わにしていた。まさか、安倍元首相の事務所が誤った情報を容認しているとは考えたくないが。

 安倍元首相といえば、朝日新聞の記者(すでに退職)が妙な話に関与して処分を受けた。朝日新聞の説明によると、安倍元首相が「週刊ダイヤモンド」からインタビュー取材を受けた後に朝日新聞の記者が安倍元首相の依頼を受けて、「週刊ダイヤモンド」に対して公表前に記事を確認させるよう求めたという。

 記者はインタビューを担当した副編集長の携帯電話に連絡し、「安倍(元)総理がインタビューの中身を心配されている。私が全ての顧問を引き受けている」と発言し、「とりあえず、ゲラ(誌面)を見せてください」「ゴーサインは私が決める」などと語ったという。

 副編集長は断ったというが、記者の行為そのものが編集権を侵害する行為だ。朝日新聞は報道倫理に反する行為として停職1カ月の処分にしたというが、アメリカなら懲戒解雇になってもおかしくない行為だろう(アメリカには退職金という制度が無いので懲戒解雇にしやすいという一面はあるが)。

 処分を受けた記者は反発しているが、安倍元首相から依頼されて「週刊ダイヤモンド」に接触した事実は否定していない。元首相から頼まれても、「それはジャーナリストとしてはできません」と言えなかったのか。仮に、「私が一声かければ問題は解決します」とでも考えていたなら、それは永田町界隈に多くいる、いわゆる「政治屋」と変わらない。それはジャーナリストではない。記者として評価された人だっただけに残念だが、同じようなことは他の記者にも散見される。安倍元首相の守護神と揶揄された東京高検検事長と新聞社の記者や社員が賭けマージャンをしていた問題も記憶に新しい。その取材者と取材先との近い関係を評価するジャーナリストもいた。

 私の印象は次の一言に集約される。漂流が止まらない。

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