<86>おじさんがいいなと思って、ずっ~と撮ってたんだ 「綺麗だね~」なんつってね(笑)
八百屋のおじさん(2)
電通時代に作っていたスケッチブックの手作りの写真集。あの頃、なんであんなに執拗にやってたのかな。すごいよ、毎日撮って、毎日プリントして、毎日スケッチブックを作ってたんだからね。
『八百屋のおじさん』は、銀座の画材屋の月光荘で買ったスクラップブックで作ったんだよ。4、5冊あったんじゃないかな。銀座の路地裏でね、売りに来る八百屋のおじさんがいいなと思って、ずっ~と撮ってたんだ。地方から八百屋が売りに来てるんだよ。ちょっと休憩してくるって言って、タバコ吸ったり、株屋にも入っていくんだ。みんな、仲間の行商の人たちなんだね。おじさんが売っているところに、八百屋の奥さんや、見習いのヤツが来たりするんだよ。小料理屋で働いているのとか、そこの嫁とかも昼間、仕入れに来るわけだよ。そうすると、これがまたオレと似ていてさ、女好きなのよ(笑)。すぐ声かけるの。「今日はいいんじゃない?」「綺麗だね~」「オマケしちゃうから」なんつってね(笑)。
八百屋のおじさんは、さっちんの親父みたいでね
『八百屋のおじさん』を作ったのは電通に入った頃で、「さっちん」の後くらいなんだ(1964年撮影)(「さっちん」は大学4年生の1962年から63年に撮影)。大学の頃、映画が好きで、よく観てたんだけど、時代はイタリーのネオリアリズモだろ。ロッセリーニの『無防備都市』だとか、(ヴィットリオ・)デ・シーカの『自転車泥棒』が好きで、たまたまオレんちの(台東区)三ノ輪の近くにある三河島の古いアパートに行ったときに、「あっ、デ・シーカだぜ」と思ったんだ。それから、そこに通いつめて、手回しの16ミリのボレックス(映画カメラ)で撮影して、写真も撮った。で、<さっちん>に会ったんだよね(連載5、6に掲載)。
八百屋のおじさんは、さっちんの親父みたいでね。<さっちん>がオレだとしたら、<八百屋のおじさん>はウチの親父のような感じでね、似たところがあったんだよ。
自分でプリントして、レイアウトして、1冊1冊作ってたんだよ。その時代の、そういうコトを撮っちゃってるんだ。それを撮ろうと思ってるんじゃないけど、そういうコトが写っちゃってるね。
(構成=内田真由美)