著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。

(9)東京の地酒

公開日: 更新日:

 若い頃、酒は灘か越後と薄っぺらな知識しかなかった私も、東京の地酒を知ってはじめて、土地の酒のおもしろさに興味を持った。

 酒の原料は米、と誰でも思う。間違いはない。けれど、もっとその土地に深い関係があるのは、水だ。

 たとえば青梅の小澤酒造。最後に訪ねたのは2018年である。ここは「澤乃井」の蔵であるが、蔵の中で、奥多摩から秩父へかけての山々の地中を潜って来た伏流水の取水口を見ることができる。場所は、多摩川の上流。川は山を削った谷の底を流れている。奥多摩へ続く青梅街道も、このあたりでは片側1車線の山の道だ。蔵からその道を渡り、多摩川を見下ろすあたりで、「澤乃井」を飲むことができる。試飲できる店もあるが、おでんと「澤乃井」を買って、崖の上のテラスで飲む昼酒は格別だ。

 ああ、うめえなあ。今年も、今年の米で酒造りが始まるな……。日本酒というのは、毎年、新酒が飲めるのが、なにより嬉しいな……。

 酒好きは、鼻先を冷やす青梅の冷風に震えながら、ほのぼのするのである。

 蔵に展示してあった、大きな甕のような瀬戸物の器を思い出す。江戸時代は通い徳利というこの器に酒を詰めて得意先に納品していたらしい。私が見たのは、2升は入りそうな巨大徳利。説明書きによると、蔵と同じ沢井の土地に住んでいた作家・中里介山がこの徳利で酒を注文していたらしい。あしかけ30年連載されたという小説「大菩薩峠」の作家は、ずいぶん酒を飲む人だったらしい。

 作家の、酒飲み話は、何かと興味深い。

【連載】大竹聡 大酒の一滴

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