1650万円を求めて賠償額はわずか149万円…「金額より相手を特定すること」 誹謗中傷裁判の当事者が語る勝訴の意味
Xへの「嫌煙」投稿キッカケにnetgeekとの裁判に
裁判に至る発端は2018年9月19日に「嫌煙(喫煙を嫌うこと)」に関するXの投稿をしたコンサルタントの永江一石氏に対し、netgeekが「永江一石、喫煙席に乗り込んでタバコに文句を言う寄行」というタイトルの記事を公開。
永江氏は分煙表示のない伊豆・下田のそば屋で、食事を終えた女性がタバコを手に歓談していたため「タバコ臭っ、蕎麦食うどころじゃないので出よう」と同行者にしゃべった。女性は外に出て行ったため、「やはり言うことは言おうと思った」と締めた。この投稿に対しては多数の賛否のコメントが寄せられ、当時のXでは話題となっていた。それを受け、netgeekは「蕎麦屋で喫煙席に座ったのに、タバコを吸っていた女性に文句を言ったという頭のおかしい投稿」と評した。
だが、永江氏は「喫煙席に乗り込んだ」という事実はなく、空いていた席がそこしかなく、あくまでも同行者に「出よう」と言っただけである。netgeekは永江氏が批判者に返答しているスクショを貼り続け「Webコンサルタントという肩書を名乗っているが、月100万PVを自慢するあたり、小物感が半端ない」と評価。記事の最後では「口八丁のインチキコンサルタント」「暴走する永江一石はタバコの何百倍も有害だと思う」などと評している。
これを受け、永江氏は9月29日にブログで「反撃」を宣言し、netgeek運営者の正体を明かすべく20万円の賞金をかけて募ったところ、元従業員等から情報が集まる。その後、フェイクニュースや誹謗中傷記事を問題視するBuzzFeedJapanの記者が運営者の実家を訪れ、同氏の父親に取材をした。すると、netgeekが記者の名刺をサイトに晒したため、永江氏は集団訴訟を呼びかけ、そこに前出の4人が加わり、弁護団が結成された。訴訟相手はnetgeeekに加え、サイト運営者の情報を出さないとし、ドメイン管理会社のGMOインターネットも含む。GMOの件は棄却された。
なお、永江氏と千田氏は提訴後の司法クラブでの記者会見での発言が「社会的評価を低下させた」と判断され、netgeekの運営会社と代表から反訴された。高裁では永江氏は代表に11万円+年5%の利息と運営会社に35.2万円+年5%の利息、千田氏は運営会社に11万円+年5%の利息を支払う判決が出た。その後最高裁に上告するも棄却され、当裁判は結審した。
これがこの裁判の流れだが、損害賠償引き上げの法改正も検討されている中、永江氏に当裁判の判決の賠償額に思うことと、自分の中の「勝訴」のポイントについて聞いた。
「あの頃、誹謗中傷裁判で勝つ、多額の賠償金を得るというのは難しかったんですけど、僕は金額よりも、netgeekを潰すことを考えていたんです。相手の名前と住所を公開したわけで、相手が社会的制裁を受けることを優先したのですよ。それは自分にとって成功したといえるでしょう。明確な誹謗中傷をされたので、勝つのは当たり前でした、負ける要素ゼロなんです。相手を特定できた時点で勝っているんですよね。僕は逆に30万円ぐらいならいらないから、相手の情報を公開した方がいいっていつも言っているんです」
■裁判の結果獲得した「誹謗中傷をすると訴えてくる人」
つまり、金額の多寡は永江氏にとっては二の次で、誹謗中傷で広告費を稼ぐビジネスモデルが許せなかったから、義憤の意味でも相手の素性を裁判を通じて明かすことが大事だと考えたわけだ。そして、この裁判を通じて得たものもある。
それは、永江氏本人が「誹謗中傷をすると訴えてくる人」という評判を獲得したことにある。多くの場合泣き寝入りをするが、採算度外視で提訴してくる永江氏に対し、誹謗中傷していた側はターゲットからはずすようになっていった。つまり、誹謗中傷を書き込む者も、相手を選んでいるのだ。永江氏によると「政治家や天皇家であれば反撃してこないと見ており、こうした公人が最近は誹謗中傷のターゲットになりがちです」とのこと。裁判で決まった損害賠償の金額について、千田由紀氏と新田龍氏はどう考えたか。本書より引用する。なお、繰り返すが、求めたのは1人330万円だ。
【千田氏(38.5万円)】
〈金額自体にはこだわっていません。お金を目的に訴えたわけではないので。ただ、いろいろ考えるとマイナスになっているかもしれませんね〉
【新田氏(22万円)】
〈裁判費用や労力を考えると、全く割に合いません。ただ、もともと解決金額の相場が低いことは理解していたので、ある程度覚悟はしていました。また仕事柄、訴訟にまつわる事案を扱うことも多いので、一度自分で裁判の当事者を経験しておきたいという考えもありました。さらに、個人で訴訟を起こすには、弁護士費用や労力の負担が大きく、司法の敷居も高い。集団訴訟だからこそ、やれると思いました〉
今後の法改正は果たしてネットにおける誹謗中傷の抑止力になるのか? だが、世の中には裁判で勝訴しても払うものも失うものもない「無敵の人」がいるわけだし、誹謗中傷で得られる広告費が賠償金額と裁判費用を上回れば躊躇なくやり続ける人もいることは覚えておきたい。なお、netgeekはこの裁判後、誰かを叩くような記事ではなく、ネコ情報などを多数出すサイトに変容したが、2025年3月22日以来、Xの更新はなく、サイトは「このページは動作していません」の表示が出る。
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