ユニクロ潜入が話題 横田増生氏が明かす日本企業の光と影
きっかけはユニクロの柳井正社長のこんな言葉だったという。
〈悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。うちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたい〉
で、言われた通り、実際にアルバイトとして“就業”。15年10月から1年間以上にわたり店舗で潜入取材したジャーナリストの横田増生氏。昨年12月から、週刊文春に掲載された衝撃の“現地ルポ”の生々しかったこと。「働き方」が問われている今、ユニクロのみならず、日本企業の「光と影」を語ってもらった。
■きっかけは「面白そう」
――横田さんの潜入取材は05年の大手通販のアマゾンを皮切りに、15年には物流大手ヤマト運輸と佐川急便。今回のユニクロは4社目ですが、潜入取材ってきつくないですか?
アマゾンは半年間働きました。ユニクロは全部で3店舗で働いた。最後に働いたビックロでは、基本的に火、土、日曜の週3回勤務で、1日8時間。休憩と通勤時間を加えれば約10時間の拘束です。そのうえ、これは取材なんだけど、現場で長時間メモを取っていると他の従業員に怪しまれてしまう。だから記憶し、帰宅後、その日のうちにメモをまとめる。これも時間的にキツかった。
――それでも潜入取材をやろうと思ったのは?
最初は「面白そう」だったんです。アマゾンに潜入した時は。それを本にまとめたら予想以上に反応がよかった。「こんなに受けるのか」と意外に感じたのを覚えています。
――世間が持っている企業イメージと労働環境との落差というか、そこに多くの人が関心を持ったのでしょうね。
企業って、経営方針とか社長の話だけでは見えてこない。そこで働いている人はどうなのか。両方見えないと企業の実態は見えてこない。社長の話なんて、いいことしか言わないわけですからね。まして、労働問題ってのは企業にとって痛いところというか、見せたくないところですからね。
――ヤマトと佐川に潜入したのは?
どちらも取材を断られたんです。それじゃあ、また潜入してみようかと。
――ユニクロも同じ?
そうです。潜入する以外に取材方法は限られている。とにかく、関係者がしゃべらないんです。社員や関係者には厳しい「守秘義務」が課せられているからです。毎日、朝礼や通達で「守秘義務」としつこく言われる。それに、僕は11年にユニクロの本(「ユニクロ帝国の光と影」)を書いてから記者会見にも入れてもらえない。
――こうなると、潜入するしかないですね。
ユニクロが重視する守秘義務って、範囲がどこまでなのか疑問でした。例えば、顧客名簿とかデザインのパターンなどは外に持ち出したら守秘義務違反というのは分かります。しかし、キツいとか厳しいとか職場環境を部外者に話すことも守秘義務違反なのか。一般的に、潜入ルポは現場を退いてから書くものですが、今回はアルバイト契約を結んだまま週刊文春に書きました。僕が書いたことが、守秘義務に違反するのか否かをユニクロに問いたかったという意味もありました。結局、ユニクロ側は僕を懲戒解雇できず、より軽度な諭旨解雇という形を取らざるを得ませんでした。
――これまで取材したアマゾンやヤマト運輸、佐川急便、ユニクロに共通するものは何でしょう。
まずは、どこも取材を積極的に受けないということ。特に僕のようなフリーランスのジャーナリストの仕事依頼は、はねつけてしまう。そういう企業について書かれた本は、「いいこと」しか書かれていない。中にはちゃんとした本もありますけど。経済紙などを読んでいると、企業は全てうまくいっているように見える。「本当なの?」という疑問は湧きますね。企業の実態は決算書や経営計画だけ見ても分からない。現場で働いている人たちはどうなのか。その“実態”は中に入ってみないと分からないのです。
――取材を受けない企業、つまり秘密主義の会社って労働環境はキツいですか?
どこも厳しいです。これは第2の共通項と言えます。先日、佐川急便の配達員が荷物を地面にたたきつける映像がネットにアップされ、ニュースになりました。あれはやりすぎでしたけど、配送センターなどでは、荷物を蹴飛ばしたり、ポンポン投げたりというのは珍しくありません。人が少ないのに荷物が多すぎる。一個一個丁寧に扱っていたら、配送の時間に間に合いませんからね。