信濃町「紺碧」休息と充足の提供こそが日本の喫茶店の基本
友人が「注文した品の代金とは別に、滞在時間30分ごとに100円のタイムチャージが発生するお店がある」と教えてくれた。
かつて取材した、似たようなシステムの店の経営者は若い起業家風の人だったから、「紺碧」でも同じような人に話を聞くものだと想像して、店のドアを開けた。
応対してくれたのは今年68歳という中村直樹さん。タイムチャージは30年以上も前の1987年、店を開いてしばらくしてから導入した仕組みだと教えてくれた。
店主の年齢も異なれば、導入理由も違った。若き起業家が言ったのは、「居心地が良くなければお客は来ないが、長居されると売り上げに響く。それならタイムチャージの方が理屈にかなっている」。
一方、中村さんがタイムチャージを取り入れた経緯はこうだ。開店はバブル景気の真っただ中。当時は1杯1000円でも客が入る時代だった。
日本の喫茶店は本来、休息と充足を提供する場だと、中村さんは考えていた。快適性を提供するため、一部の席には当初からリクライニングシートを置いていたが、店に長時間滞在する人と、そうでない人が同じ1000円では少々不公平ではないか。それならばコーヒー代を安くして、滞在時間に応じて料金を変えよう――。
タイムチャージは30分100円。注文を受けてから豆をひき、ドリップで入れたコーヒーは1杯500円。コーヒーを飲んで30分で店を出れば600円をいただくことになる。
「近所にある慶応大学病院に出入りする企業の人が数多く利用されました。病院の先生から呼ばれたからすぐに駆けつけられるよう待機場所にしていたんですね。居心地が良いから『ここはほかの誰にも教えない俺の秘密基地だ』なんて言う方もいらっしゃいました」